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出会いは突然に
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「よーしじゃあ今日はここまで!帰ってい
いぞ〜」
担任の先生の一言でぞろぞろと教室を出て行く。
俺はあの"いつもの味"が恋しくなって2人に声をかけた。
「ねえねえ、いつものお店行かない?」
「あ〜悪いちーちゃん!今日は部活があるん
だ…」
「今日は母さんいないから妹たちのご飯作ら
ないと…」
「そっか〜しょうがないね!じゃあ今日は1
人で行っちゃおうかなー」
日向はバスケ部のエースで、そんなきつくない部活だけど、試合前は結構真面目に練習しているらしい。
慧は5人兄妹の長男。
確か大学生の姉(一人暮らし)と中学生の妹と小学生の双子の弟、妹がいたはずだ。
学校では無気力系男子なのに(失礼かな?)、家では良いお兄ちゃんをやっているらしい。
2人に別れを告げて電車に揺られる。
自宅の2つ前の駅に降りて目的のお店に向かっていると、1人であることに少し寂しさを覚える。
(なんやかんや、1人で行くのは初めてだっけ…)
お店のドアを開けると、ふわり、と甘い匂いに包まれる。
初めてこの店に来たのは、高校の入学式の帰り道だった。
(この匂いに誘われたんだっけ、なつかしいなぁ)
ここは俺の行きつけのカフェ。
ここでいつも頼むがアップルティーで、俺の1番好きな味。
「アップルティー1つお願いしますっ」
「ふふ、今日もですね?」
「ここのアップルティー美味しいんだもん」
この人は、葉月 直(はづき なお)さん。
ここで働いている店員さんで、何度も通ううちに顔見知りになったのだ。
「1人なんて珍しいね、いつも友達と来てる
でしょう?」
「今日は2人とも予定合わなくて…」
「あーそっかぁ…、騎士はお休みか…」
「え?」
葉月さんは不安そうに何かを呟いたが、よく聞こえなかった。
「ううん、なんでもない!気をつけて帰るん
だよ?」
「?はい…。」
あたたかいアップルティーから伝わる温もりに心まで温まる。
お店を出ると、春と言えど少し寒くて、アップルティーがより心に沁みた。
「ねぇねぇ、君1人なの?」
突然斜めうしろから聞こえた声は、自分にかけられた声だと最初は気づかなかった。
「あれ〜?聞こえてるよね?君だよ君!」
「っ、痛…!」
肩を掴まれて後ろを振り向くと、全く知らない男の人がいた。
(まさかこれって…かつあげ?!)
「あの、俺お金そんなもってないです…っ」
「いいっていいって〜!俺と遊んでよ〜」
「遊…?」
「君みたいに男でも可愛いと何回もしたこと
あるんじゃない?セックス」
「な、せっ、…?!」
(この人…やばい…っ!)
本能でそう悟った俺は、掴まれた腕を必死に払おうとする。
「ありませんよ…っ、放してください!」
「興味ない?男同士だと妊娠とかないから
楽でいいんだよね、はは」
「っ、やだ、放せ…!あっ、」
もみ合いになる内に握っていたカップが地面に落ちて、中身が飛び散ってしまった。
(最悪だ…)
そう思ったその時だった。
「それ以上この子に触れるなら、ただでは帰
せませんよ」
少し低めの、でも聞きやすい安心するような声が聞こえた。
スーツ姿で、会社の帰りだろうか。
20代半ばくらいの爽やかな男性がそこには立っていた。
「はぁ?俺はただ遊ぼうって言ってるだけだ
けど?あんたに何の関係があるんだよ」
その言葉を待ってました、と言わんばかりに
にこりと微笑むと、その人は流れるような動作で俺の肩を抱く。
「私の恋人ですよ」
(え…?!)
その人の言動には驚いたものの、きっと俺を助けようとしてくれているのだと解釈した俺は驚きを隠した。
「そんなわかりやすい嘘つくなんて、お兄さ
んもしかしてばかなの?」
「…なら、これで信じてもらえるかな?」
ごめんね、と耳元で囁かれて、その意味がわかるまでに1秒もかからなかった。
「んっ、ん?!」
ちゅっ、と音がして綺麗な顔が離れていく。
「2度とこの子に近づかないでくれるかな」
「お、おう…」
俺に執拗に迫っていた男は、心ここにあらずといった感じで去っていった。
「あ、あの、ありがとうございました…っ」
「無事でよかったよ。もしかしてファースト
キス、だったかな?」
「え?…あーえっと、そ、そうですね…」
申し訳なさそうに聞かれてはじめて自分がファーストキスを男の人と交わしたことを認識した。
「それは申し訳ないことをしたね…。
君は家はこの辺なのかな?」
「2駅先ですけど…」
「さっきのお詫びといっては少ないかも知れ
ないけど、夜ご飯奢らせてくれないか?」
「いえそんな!全然嫌じゃなかったし…その
大丈夫なのに、」
「だめだよ、これじゃ俺の気が済まないから
ね。それとも、こんなおじさんと一緒にご
飯は嫌かな?」
「そ、そんなことないです…!」
なら行こうか、と歩き出したその人が、不敵な笑みを浮かべていたことを俺はまだ知らなかった。
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