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羽田平助から見た恋人
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気付いた頃には男も女も性的対象に入っていた羽田平助は、いわゆる『バイセクシャル』と呼ばれるマイノリティに含まれている。
しかしその『マイノリティ』が『普通』である羽田平助にとって、常々不思議でならないことがあった。
人は何故、1つの性別にのみ、性的興奮を覚えるのか。
それは恋人である横山真一を見ていても、思うのだ。
[真人間になる方法]
年度末は、平助から見ても真一は忙しそうだった。
しかし新年度となっても、真一は忙しいようだ。
何がそんなに忙しいのか、会社員ではない平助には分からない。
会社の新しい経営方針だとか、新しい役職だとか、新入社員の育成だとか、そんな所だろうかと、テレビで得た情報をもとに、平助なりに考えたが、その多忙さについてはいまいちピンとこなかった。
しかし、朝食をとる真一が明らかに眠たそうだというのは分かったため、平助は極力大人しくしていた。
いつも料理は適当に作っていたが、少しだけ栄養バランスも考えてみることにした。
冬の寒さが徐々に消え、暖かくなり始めている今日この頃に、平助でも春の訪れを感じる。
今年も桜が咲いた。
仕事から帰っている途中、一本の桜が目に止まる。
暗闇の中でも分かる、ぼんやりとした白い塊。
音もなく散っていく花弁を、しばらく眺めた。
多忙な真一は、桜が咲いたことも、桜が散りだしていることも、知らないかもしれない。
そう思い、その桜を写真に撮る。
暗闇でよく映らなかったが、桜だと言いながら真一に写真を見せると、彼は「今年もお花見できそうにないな」とぼやきながら、その疲れた顔を少しだけ綻ばせたため、平助は良いことをしたと思った。
結局、真一が言ったように、花見は出来ないまま、今年の桜は散った。
§
「真ちゃん、あのね~」
煙草を吸いながら、出勤前の朝食をとる真一をただ眺めていた平助が口を開いた。
真一は味噌汁の具が口の中に入っていたのもあり、視線だけを平助に向ける。
「オレさ~、次の出勤で辞めることにしたんだよねぇ、ホスト」
恐らく真一は驚くだろうと、平助は思った。
口の中に入っている味噌汁の具を吹き散らかすに違いないと。
しかしその予想は外れ、真一は平助の発言を聞いてもなお口を動かし、そして味噌汁の入った茶碗を持つと、その汁を飲む。
持っていた茶碗をテーブルに、箸をご飯茶碗の上に置くと、口の中の物を全て飲み込み、視線を再び平助に送った。
「いいんじゃないか?」
「お~、その反応は予想外~」
「それで?お前、これからどうするんだ?」
平助が仕事を辞めることに対して咎めるようではなかったが、真一の目は真剣だった。
そこなんだよねぇと、平助は返す。
これといった将来設計が出来ているわけではなかったからだ。
ホストを辞めたからといって、ニートになろうとは思っていない。
金は稼がなきゃならないと思っている。
しかし、だからと言って、何かやりたいことがあるわけでもない。まず、学歴もキャリアもない自分が選り好み出来る立場ではないことも、よく分かっている。
それから黙りこんでしまった平助を置いて、真一は再び朝食を進め始めた。
2人の間に、沈黙が流れる。
「金は?」
平助を見ずに、真一は問いかけた。
「しばらくは大丈夫~」
「それなら、慌てて決めなくてもいいか。家賃とか光熱費とかはこのまま折半だからな」
「それはご心配なく~。そのつもりだし」
平助は真一に向かってピースをする。それを真一は呆れたように見る。
「急がなくていいとは言ったけど、ちゃんと真剣に考えろよ。ホストが悪いと言ってるわけじゃないが、その年齢でキャリアもなければ中卒なんじゃ、正社員は酷しいからな」
「分かってまーす」
「金が欲しいからって、後ろめたいことは絶対にするな。しないと思うけど」
「は~い」
全く気の入ってない返事を平助がすれば、こいつ本当に分かってんのかと言いたげな目を真一はした。
しかし、そこでふっと表情を柔らかくする。
「お前から“遼”が居なくなるのも、なんだか変な感じだな」
「だね~。真ちゃん、一回もお店に来てくんなかったよね~」
「男が行くかよ、ホストクラブなんて」
「オレの店、結構男のお客さん来てたよ~?」
とは言っても、だいたいがオーナーや店長の知人だったが。
それでも中には、本当にホストが目当てでやってくる男の客もいた。指名されたこともある。
その一人一人の内情など知らないが、あのお客さんもあのお客さんも、真一と同じくゲイだったのかなと、平助の頭の中に客の顔が過った。然程興味はないが。
平助が短くなった煙草を灰皿に押し付けるのとほぼ同時に、真一は箸を置いて「ごちそうさま」と言う。
それに対して「おそまつさま~」と平助が返すと、真一は椅子から立つわけではなく、壁に掛けてあるカレンダーに目を向けた。
「次の出勤って、いつだ?」
「明後日~。今日はお休み」
「ふーん。ならお前、家に居るのか」
「そうだよ~」
真一の意図が分からない発言に、平助は首を傾げる。
そして真一と同じく、壁に掛かったカレンダーを見た。
ゴミの日が記入されてある以外、カレンダーには何も書かれていない。
平助の頭に、さらにクエッションマークが浮かんぶ。
「今度の休み……日曜なんだけど」
「5日後?」
「そう。……お前家に居るなら……どこか行くか?」
「え~?それってさぁ」
デート?と平助がからかう口調で言うと、真一はカレンダーから目を離さずに、「ん」とだけ告げた。
目の前の恋人が可愛すぎて爆発しそう、という表現が当てはまるのはこういう時だと思う。
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