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33偽りの関係
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あの日もそうだった
「行かないで!」
優しかった両親が自分を天界の貴人に売ったあの日
「天界であれば長生きできるし苦労もしない」
きっと幸せを願っての事だろうが
僕は両親と一緒に居たかった
天界での生活は厳しく
祖父母に近い年の醜い男の夜の相手
人間である僕に対しての冷たい視線
そんな中での温もり
「僕は緑」
若葉のような髪に
翡翠の様に輝く瞳
「緑の手は温かい」
天界に来て初めての温もり
しかし
「すみません。緑は俺たちのように巫子の呪縛に囚われて欲しくないのです」
白竜がその温もりを奪った
「行かないで!もう一人はやだ!」
緑の裾を掴んだまま離さない蓮に
緑は動けなくなる
「緑様、夜も更けています。長居は失礼です」
緑の腕を引く
「それにあなたは喪中の身。みだりと外を出歩いてはいけません」
蓮の手を外す
「穢れを清浄なる巫子様に触れさせますな!」
普段の穏やかな表情はなく
「これ以上白竜様の心労を増やさないで下さい」
無理矢理に連れ去った
「僕の竜を返してよ…」
「ん…紅?」
目を覚ました白竜が触れた温もりに声をかける
「僕です」
柔らかく微笑む相手は
「楊!すみません!あのまま眠ってしまいました!」
「構いません。お疲れだったのでしょう?」
衣服を身に付ける
「あの…」
「紅の事なら大丈夫。あの子には内緒にしておきます」
「いえ。俺があなたに頼ったのは事実。黒にも顔向けができない」
落ち込んだ白竜の頭を撫でる
「僕が無理矢理にしたのです。あなたは何の気負いもありません」
窓に足をかける
「昨日の事は夢だと思ってお忘れなさい」
そのまま楊は去っていき
「おはようございます白竜様。お召し替えをお持ちしました」
天狗が着替えを持ってきた
「昨夜はぐっすりとお休みでしたか?」
「はい。いつまでもメソメソと泣いているわけにはいけませんから。緑は?」
「緑様はすでに起きられています。そして…」
「白竜。おはようございます」
「おはようございます。昨日は相手もしてやれずすみませんでした」
「いえ。怪我の具合は?」
「もうすぐ医者が来ます。それより不自由はありませんか?屋敷から身の回りの品で使えるものは持ってこさせましたが壊れたものもありますので、それに関しては商人を呼びます」
「あの…」
「喪中は外出は出来ません。お前には窮屈かもしれません」
「白竜」
「大したものはありませんが双六や碁盤はあります。俺も碁の相手であれば出来ます。困ったことがあれば天狗に言ってください」
「緑様。遠慮なくお申し付けください」
恭しく頭を下げる天狗
「僕なら大丈夫です!」
「お前は俺にとっても大事な弟です」
静かな
しかし威圧感のある声
「俺はもう失うのは嫌です」
「白竜!僕は!」
「白竜様。お食事が冷めます」
「すみません天狗。先ずは食事にしましょう」
食堂に向かう白竜に
尚も話そうとするが
「白竜様は大変お疲れです。些末な事で煩わせたくはありません」
天狗が釘を差す
「翠様は巫子に溺れ、白竜様に刃を向けた謀反人。あなたまで巫子に溺れ、破滅に向かうならば私が許しません!」
いつになく厳しい眼差しに
「ごめんなさい」
緑は俯いた
僕はこの人にとって謀反人の弟なのだ
「白竜。具合はどうだ?」
「黒。俺は大丈夫です。ただ…」
椀になみなみと入った液体に眉をしかめる
「これが苦痛です」
「何だこれは?毒物か?」
液体からは薬品のような異臭が漂う
「薬湯です。大分冷めたようです」
天狗が冷えた薬湯を白竜に薦める
「いくつになってもこれだけは慣れません」
一口飲み
ため息を吐く
「全部飲んでください」
「はぃ…」
チビチビと薬湯を飲む白竜に
「緑にと持ってきたものだが」
飴を差し出す
「いえ。それは緑にあげてください。俺は大丈夫ですから緑の相手をしてもらっても良いですか?」
「ああ。博打のやり方を教えるのだな?」
「違います…」
「緑様。お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます。僕の事はあまり構わないで下さい」
「旦那様から緑様が快適に過ごしていただくよう命令されておりますので遠慮なさらずに」
とは言うものの
「監視みたいだ」
屋敷の人間皆が自分を見張っているようで
「いつもみたいにしてくれたら良いのに…」
茶を啜る
「お前も薬湯か?」
「黒」
飴を持った黒が現れた
「ふう…」
漸く薬湯を飲み終わった白竜が白湯をがぶ飲みする
「大袈裟な…」
天狗が笑いながら桃を差し出す
「甘い桃が手に入りました」
「はあ…飴が良かったな」
苦味の残る口内を甘い桃で慰める
「すっかり子どもですね」
笑う天狗に
「すみません」
萎縮する
「いいえ。昔から我慢ばかりしていましたから。たまには我儘も宜しいでしょう」
「その我儘で緑には可哀想なことをしています」
自分が巫子にすがり付いていながら
緑と蓮を引き離した
「俺はもう失いたくありません」
「大丈夫です白竜様」
天狗が抱き締める
「あなた様の為ならこの天狗。何でもします」
「やれやれ…男婆やは甘やかしすぎだよ…」
「黒。兵舎や皆はどうしていますか?」
特に話題もなく
桜が破壊した兵舎の具合を訪ねる
「もう復旧は始まっている。訓練は別な場所で行われている。俺たちはまだ関わることを許されていない」
うまく作ったはずの虚偽の報告を疑うものも多いと言う
「元々信用がないからな」
胡桃を頬張り噛み砕く
「…ごめんなさい」
「お前のせいではない。あいつもそう思っている」
「………」
俯いた緑の肩を抱き寄せる
「今はあいつを支えてやれ」
「…はぃ…」
「ああ。二人ともここに居ましたか」
白竜が碁盤を持ち現れる
「白竜。そんなものを持って!治りかけだろう?」
黒が気遣い
碁盤を受けとる
「久しぶりにやりませんか?」
いつものような笑顔を見せる白竜に違和感を感じるも
黒は気付いていないようで
「良いな。賭けるか?」
「…賭けません…」
否
日常を装っている
「緑は碁は?」
「やったことはありません。屋敷では庭の手入れをしていました」
「楽しいのか?」
「土いじりが好きなんです。きれいな花が育つと楽しいし、自分で食べる野菜も育てたり」
「自分が食べる野菜も?凄いですね」
白竜が笑いかける
「別に…母と暮らしていた時はそうしていたから」
「そうですか。俺にも教えてくれますか?」
「お前には無理だろう?お坊っちゃん育ちで着物も自分で着れないのに花の世話は無理だ」
「黒!」
「そうですね」
「天狗まで」
ふたりにからかわれる
「白竜は胡弓が出来るでしょう?名人だし」
「あー…はい。名人ではありませんが…」
恥ずかしそうに俯く
「練習はしているのですから今演奏なさっては?」
「俺も聞きたい」
「僕も」
期待の眼差しの二人に
天狗も見守る
「では少しだけ」
胡弓を演奏する
「いい音色だな」
「夏呂久様」
中庭で演奏していた白竜の側に夏呂久も現れる
「白竜様は翠様が居なくなった空虚はなくなったかい?」
「緑様のお蔭です。あの方がいらっしゃるから」
「蓮ちゃんと無理矢理に引き離した甲斐があったねえ」
夏呂久の笑顔に
天狗が睨む
「緑様は白竜様の家族です。巫子の物ではありません」
「やれやれ…過保護な乳母やがすっかり板について」
「私は白竜様の狗ですから」
「ふふ…」
夏呂久が笑い
「偽りの平和なんて長くは続かないさ」
続く
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