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硝子とポルカと薔薇の花
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律郎(モノ)---そう、わかっている。
こんな所にいるわけがない、と…。
あれは10年も前の話。
ここは、あいつと暮らした場所から
遠く離れた地、いるわけがない。
けれど、…つい、探して、しまう ---
オフィス内。
律郎を前に、小林雅史が
神妙な面持ちで報告をしている。
律郎「…で、相手にケガはないのか?」
小林「あったぶん…。せいぜいコケた時の擦り傷とか打身位かと。チャリが身代わりになってくれた、っていうか…」
律郎、ため息ひとつ。
律郎「住所はちゃんと交換したんだろうな。メモあるか?」
小林「あっ、あります。これです」
小林からメモを渡され、顔付が変わる。
律郎「…相手、どんな人だった?」
小林「え?」
律郎「学生とか老人とか」
小林「ああ、えっと…多分自分より年下で…見た目はハタチ、20代前半くらいの…」
律郎(モノ)---ほら、違う。
だから、そんなわけない。
同姓同名なんて、この世の中
どれだけいると思ってる?
ましてや相手は若者らしい。
…そう、あいつはもう30になった---
律郎の運転、助手席に小林。
膝の上にはお詫びのお菓子。
小林「…ここだけの話、自分悪くないです。むこうが飛び出してきて、ぶつかったんです。それなのにお詫びって…」
律郎「交通弱者が優先されるんだ。それに営業車だったからな。ちゃんとお詫びして誠意を見せないと社のイメージに傷が付く」
小林「自分、…何か責任取らさせるんですかね?」
律郎「大丈夫だ。保険で済ませられるだろう。命にかかわる怪我でもないし、…そんな青い顔するな」
ハァ…とため息、具合悪そうな小林。
律郎「ところで、この〝工房村〟ってのは何なんだ?」
小林「藤田課長転勤してきてまだ2年ですもんね。うちの地域、町興しの一環で芸術家を一ヶ所に集めて
工房村つくったんです。自分芸術はキョーミないんで詳しい事分からないんですけど、工房村の作品はいろんな所に飾ってありますよ」
律郎「そうなのか?」
小林「藤田課長マイカー通勤ですもんね。相手の大塚さん、工房に行く途中だったらしいです」
目的地、工房村駐車場到着。
車を降り、大塚の工房先を探す。
小林「あっ、あれですね。〝硝子工房・レインボー〟」
律郎(レインボー…)
--10年前の回想--
観葉植物のコーナーにて。
〝レインボー〟という名のまだ小さい
観葉植物を手に取る。
仁「わー、なんかコレきれいじゃね?買ってこーぜ」
律郎「そんなもん、すぐ枯れるだろ」
仁「枯れねーよっ、ちゃんと育てるからさ」
仁のかいがいしい世話で
元気に育つレインボー。
仁「ほら、ちゃんと伸びてきただろ。鉢、大きいのに植え替えしてやん なきゃな」
律郎「そんな事したら、枯れんじゃないのか?」
仁「だから枯れねーっつてんだろっ」
無邪気な笑顔と〝レインボー〟
--回想終了--
工房出入口ドア前に、ゆがんだ自転車。
見覚えあるその自転車にドキンとする律郎。
ガラスドア越しにシルエットが見える。再び
ドキンと胸が高鳴る。手が微かに震えつつも
ドアを開けてゆく。
律郎「ごめん下さい。私ども…」
振り返る工房主、大塚仁。言葉に詰まる律郎。
小林「藤田課長?」
仁「小林さん、でしたっけ?わざわざどうも」
小林「いえこちらこそっ。先程は大変失礼いたしました。体、痛い所はないですか?」
仁「大丈夫です」
呆然としたままの律郎。
小林「課長、藤田課長?」
律郎(モノ)---ウソだろ、…あいつが、
10年前の姿のままで、
10年前に使っていたチャリで…。---
房の片隅に植物レインボーが見える。
10年分の歳月を感じさせる程大きく育っている。
律郎(仁、本当にお前くなのか?…いや、ウソだ…ありえない)
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