アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
『最後』に君は笑うだろうか
-
春の高校バレー代表決定戦。
フルセット2:3で、俺の高校バレー生活は幕を閉じた。
……が、今はまだ負けたばかりで、正直言うと100本サーブをしたままこんなことを考えても実感が湧かない。
しかしジャンプサーブをやっているのは俺の他には若利だけで、若利はさっさと終わらせて帰ってしまったし、他の奴等も別の所でやると言う理解し難い行動に出て俺は一人でボールを打ち付けている。
「ったく……なんかおかしくねぇ……?」
一人という事に何処と無く寂しさを覚え、はぁ、とため息を吐く。勿論、俺の想い人もいないわけであって……
「……白布…」
「あの……」
「!?」
突然響いた聞き慣れた声にバッと振り返る。そこに居たのは俺の視力の問題とかなんかじゃなく、今こっ恥ずかしく名前を言っていた白布だった。
「あの…俺、川西に言われて…あの、サーブがおわったときに……まだ瀬見さんが居るかもしれないって……あー……その……」
白布がどこか落ち着かないような、気まずそうな様子で話してくる。いや気まずそうなのは当たり前だろう。いきなり部活の先輩が一人の時に自分の名前を呟かれたんだ。動揺しない筈がない。引かれただろうか。全く相手の言葉が頭に入って来ない。
「おー、そっか、あ、わりぃ白布。ドリンク取って。」
いつも通り。何もなかったかのように言うと、白布は無愛想に『はい』とだけ返事をして差し出してくる。
「ほんっとかぁーいくねぇなー。最後位笑って渡してくれてもいいんじゃねぇの?」
苦笑を溢しつつそんな風に、自分の願望なんかも織り混ぜながら言うと、白布の動きが止まる。
「?どうした?」
気に障るような事でも言ったのだろうか。そんな風に思いながらも不思議に感じてうつむいたら相手に声を掛けると、
「……嫌…………です」
白布が顔を上げる。その顔は何処か苦しそうに歪んで、今までに見たことのない顔に、心臓が脈打つ。
この顔に、させたのか。俺が。俺のせいで……こんなに苦しそうな顔をしているのだろうか。
「し…らぶ………?」
何も言葉が思い浮かばずに、無意識に相手の名前を呼んでいた。
「ああ……もう……俺はっ……」
続きがあるように詰まった言葉の先を無言で待つ。
こんなときに普通の先輩後輩という関係だったなら何かもっと他にしてやれる事があっただろうに、普通じゃない、想いを寄せてしまった俺には、ただ先程取って貰ったボトルを握りしめて待つことしか出来なかった。
「っ……最…後とか、言ってますけど、また…サーブとか……教えてほしい……です……」
明らかに反らされたような言葉に違和感を覚えながら、そんなことに気付かないようなふりをして言葉を返す。
「……なんだよ、いつになく素直だなー?もしかして俺が居なくなるの寂しいか?」
「そっ……そんなこと言ってないじゃないですか……!!」
茶化すような態度で笑いながら言った言葉に白布は敏感に反応して、それに笑ってから近場にあったボールを持ち上げる。
「じゃあ、俺まだ100本サーブ終わってねぇしどうせだったら今教えてやるよ」
そのまま『こっちこい』と言って移動しようとすると、袖の部分を掴まれる。
それだけ。たったそれだけの行動に心臓が激しく音を立てる。
しかし白布も何故か驚いたようにパッと手を離す。
「あ……え……な、ど、どうした?」
「いっ……いえ、あの……なんか、む、いしきに……す、すみません…気持ち、悪いですよね……こんな…」
互いに動揺しながら出された言葉。それに、反応してしまう。
考えるなんて理性的な部分が全く機能しなくなって、いつの間にか、白布を腕の中におさめていた。
「…瀬見さん…?んっ…!?」
「…………」
俺を呼ぶ口を自分の口で塞いでしまってからうっすらと目を開ける。
白布は固く目を瞑って顔を赤らめ、小刻みに震えながら俺の服をギュッと掴む。
酸素を求めて開いた口に舌を入れようと動かしたとき、バシバシと背中を叩かれ、我に返る。
「ハッ……ハッ……ハッ……な……にを……」
「……あ……」
息を切らして軽く咳き込む白布に、自分が何をしでかしたのか理解し、後ずさる。
「あ…ごめっ……俺っ……何して……」
やってしまった。
もう、普通には戻れない。
取り返しの付かない過ちを犯した。
そのままその場から離れようとしたとき。
「や……やだ……瀬見、さん……行かないで……!」
弱々しい声で、力で、引き留められる。
振り切れずに止まると、倒れ込むように抱きついてきて、すぐ嗚咽が聞こえてくる。
その行動に動揺しつつもなんとか言葉を出そうとすると、泣きながら白布が声を発する
「おっ……俺っ……!!すみませっ……!俺、瀬見さんっ……いか、ないで……やだっ……!」
「……白布。」
カタカタ震えて、何かに怯えたようにハッキリしない言葉を紡ぎ出す白布の名を呼ぶ。
白布はビクッと肩を揺らして、俺の言葉を待っているようだった。
「白布……悪い……本当に悪かった……もうしないから……」
その『怯え』の相手は俺で、あくまで先輩として引き留めてくれている相手に、精一杯の謝罪で落ち着かせようと思ってそう返すと、まだ涙を浮かべたまま、顔を上げる。
「やっ……違っ……」
『違う』そう告げられた事に驚きながら、その意味が分からなくて戸惑っていると、続きがあったらしく、声を発して行く。
「俺……さっき……のは、嬉しかった……ん、です」
「……え…………?」
自惚れてしまうような、そんな台詞に、目を丸くする。
「お…俺……その……瀬見さんの事……が…」
「白布」
続けようとする声を自ら遮り、表情を引き締めて白布を見つめる。
白布は不安げな表情で、でも真っ直ぐ俺を見据える。
それに目を閉じて、一つ息を吸い込む。
「……俺に……言わせてくれないか?」
その言葉に白布は虚を突かれたようにポカンとしていて、意味を理解したのかぶわっと顔を赤くする。
「……や、あ、あの……それって……」
「好きだ。白布。」
俺の言葉を受け止めた見開かれた白布の瞳から、ぼろぼろと涙が溢れる。
「え、あ、ち、違ったか!?お、俺が早とちりしただけとか……!?」
「ちが、ち、ちがいます…!う、嬉しく…てっ……拒絶去れる、って、おもったから…っ!好きです……!俺も……!瀬見さんっ……!」
我慢していた何かが溢れるように、俺の服の裾を掴んで『瀬見さん』と俺の名前を繰り返す。それをあやすように包み込むと、弱々しく背中に手を回してくる。
いつからだろうか。こんなに彼が愛しくなったのは。
最初は、ただの、同じポジションの後輩だった。何ら変なところなどない、ただの先輩後輩で。
若利に憧れを抱いていることを知ったのは何時の事だろうか。
若利に憧れるなんて、誰もがそうに決まっているだろうに、白布の時だけ心にしこりが残った。
気にも止めていなかった彼が……いま、こんなに近くでいることに喜びを覚えるようになったのは、いつ頃からだろうか。
そんなことを考えながら、確かに此処に存在する体温を、しっかりと抱きしめた。
____________________end. Thank you for reading.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 17