アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
金曜日の約束
-
金曜日の夜までなるべく瑞樹に会わないように避けて歩いた所為なのか、月曜の朝以来会うこともなかった。仕事という逃げ場所があるから、昼間は平静を保っていられる。
問題は夜一人になったとき。くだらない考えに翻弄されて、くだらない夢をみる。
一週間逃げた結果、金曜日はすぐにやってきた。きちんと最後は別れる。始まっていない関係を終わらせるって、どういうことだと思う。それでも自分の為に線引きが必要。
瑞樹から半分無理やり受け取った鍵でアパートのドアを開ける。これが恋人を待つ部屋だったら同じ空間がどれだけ違って見えるのだろう。そう思いながらため息をひとつ付いた。
何時に帰って来るともわからない相手を待つのは辛いものがある。ぐるりと部屋を見渡す。結婚すると言っていたのに、瑞樹の部屋には女性の影もなかった。鍵も素直に渡してくれたということは、ここには来ないのだろう。
どうやって知り合って、どうやって結婚までこぎつけたのか。あの仕事のやり方でよくと思う。
だれもいない部屋でそっと瑞樹のベッドに頭を乗せる。ああ、落ち着く。でもここは本来、俺がいるべき場所じゃない。その事実が胸に刺さる。
結婚したらこの小さなアパートは出て行くのかな。結婚式には俺も出るのか。地獄だな。それ。
思考の波に飲まれていたらいつの間にかウトウトとしてしまった。この1週間あまりよく眠れなかった。
瑞樹のベッドに寄りかかったまま、コトンと深い淵に落ちるように眠りについた。誰かに優しく髪を撫でられる夢をみた。そして、目が覚めたら真っ暗な部屋の中にぽつんと座っていた。
慌てて立ち上がると、部屋の電気を付ける。瑞樹が帰ってくる前に食事の支度くらいしておこうと思ったのに。
何か簡単に作れるものはないかと、ほとんど空っぽの冷蔵庫を見つめていたらガチャリと、ドアが開いた。
「おかえり。」
お帰りと瑞樹を迎えられたことに心が一瞬踊った。
「遅くなって悪い。これでも急いだんだけどな。」
そう優しく声をかけられ、一瞬に泣きそうになる。あまり優しくしないで欲しい。嫌なやつなら良かったのに。
「俺、ちょっとウトウトしてて・・・。飯、まだだよな。すぐに作るよ。」
「ん。外に出ないか。近くに魚の旨い居酒屋があるんだ。」
瑞樹は当たり前のように玄関先で俺に手を差し出した。その手がまるで見えなかったように、冷蔵庫に向き直った。手を取るわけにはいかない。ドアを閉めて、財布と携帯を手にとり靴を履いた。
この前の夜のことは何も聞いてこない。重要なことじゃないのか、それとも・・・俺とそういう関係に二度となることはないと思っているのか。
黙って二人並んで歩く。瑞樹の歩くリズムを頭の中で刻みながら歩く。高校の時からの俺の癖。こうるすとほとんど同じ速度で同じ距離を保って歩くことができるから。
「結婚するんだっけ。式はいつ?」
さり気なく聞けた。普通の友達のように。
「・・・。」
瑞樹は何も答えない。
「俺も招待してくれる?ああ、単なる同級生だったっけ。」
やはり瑞樹は何も答えてはくれない。
「冗談だよ。おめでとう。良かったな。腹、減った!さて、飯、飯。」
瑞樹は相変わらず黙ったまま、居酒屋の暖簾をくぐった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 42