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歩み寄る
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ごめんと、奏太に言われて腕の中に囲われて動けない。どうしたいんだ、何故と不安になる。
「瑞樹、ちゃんと説明させて。」
「何を・・・・。」
「本気で、離れている間に瑞樹に好きな人ができれば諦めるつもりだった。俺といても傷つく姿しか見て来れなかったから。」
「そんなの・・身勝手だ・・・・」
「解ってる。自分勝手だとは思っている。でも、傷つく瑞樹を見たくないのも本当。」
「じゃあ、何故・・・何故俺の前にまた現れたんだ。」
「・・・・・・。多分、自分が一番納得していなかったんだ。傷つきたくない、見たくないと言いながらも。他の誰かが瑞樹の隣にいるかもと思うだけで。」
「・・・・・。」
「瑞樹、矛盾してるのはよく分かっている。でも頭と感情は同じ方向を向いてはくれないんだ。」
話を聞きながら、高ぶる感情に引かれて荒くなる呼吸を宥めるように奏太の手がゆっくりと背中を上下する。
「ごめん。瑞樹、ごめん。本当に・・・自分自身の感情に自分が振り回されて、ついていけない。」
奏太が話す言葉は、どれも真実だとわかる。けれどその言葉は両刃の剣だ。俺も奏太もズタズタになる。
「俺は、どうしたらいい。奏太はどうしたいんだ。」
「そばにいたい。ただそばにいさせて欲しい。それだけ。」
一度堰を切って流れ出した気持ちが全てを押し流す。狡い。奏太は狡い。
いつも俺を傷つけてそして自分も傷ついて。俺以上に苦しんで。
「どうして今。どうして・・・俺が先に進もうと決意した今なんだよ。」
「わからない。でも、今なんだ。多分、この瞬間を逃したら俺は一生後悔するんだと思った。」
声が震えている奏太が泣いている。涙を流さずに泣いている。感情が呼応して同調して沸騰しそうだ。奏太はもう戻れない道を踏み出そうとしていることをわかっているのか。
もし奏太の手をとれば、その代償は少なくはない。
・・・え・・・何?
俺は今、奏太の手をとることをためらっている。何を失っても欲しいと思っていた奏太の手をすぐに取れない自分に驚いた。
「奏太、俺どうしたいんだろう。どうしたらいいんだろう。」
「できれば、少し距離を縮めたいんだけれと。」
一歩、歩み寄ってみようよと奏太に言われた。とりあえずお互い一歩だけ。
「お試し期間でもいいよ。瑞樹が無理だと思ったら・・・そしたら・・・・俺は消えるかな。」
奏太はおどけるように言うと、小さく笑った。
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