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恃む
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気がついたら携帯を握りしめたまま倒れるように眠っていた。結局、奏太から連絡は無かった。
会社に行けば会えるはず。シャワーを浴びて出かける準備をする。
いつもより早く出社すると奏太のいる管理部門へと足を運んだ。
「すみません。あの、尾上さんは?」
そこにいた女性社員に声をかける。
「昨日、早退されて今日からしばらくお休みされるようですけど。」
やはり何かあったんだ。その何かがわからない気持ち悪さ。奏太、お前はまた同じ轍を俺に踏ませるつもりなのか。
「あの、尾上さんの住所って教えては・・・・もらえませんよね。そうですよね。」
歩み寄る?それどころか距離が開いていく感じしかない。
何もできない。また何もできずに指をくわえて奏太が傷ついて離れていくのを見送るのか。
もう何度目かわからない番号をまた呼び出す。
二度のコールの後、つっと電話が繋がった。
「奏太?どこ?どこにいる?お前大丈夫か。」
「大丈夫じゃないかな、ちょっと。瑞樹ごめん。巻き込みたくないからしばらくそっとしておいて。俺、会社やめることになるかもしれないし。」
「どういうこと。な、少しでいいから会おう。頼むから会ってくれ。」
一瞬の沈黙のあと、ため息混じりに奏太の掠れそうなが聞こえた。
「俺さ・・・・、周りの人間を不幸にするのかな。俺が離れると、みんなが新たな道を見つけて幸せになるような気がして・・・・」
「何言ってるんだ。行くから俺。今どこ。どこにいるんだ。」
「・・・瑞樹には迷惑かけたくない。駄目だ。俺も・・・会いたいけど。家にも帰れないし。」
「家に戻ってない?どこにいるんだ。な。まさか・・・・誰かと一緒・・・・なのか。」
「・・・・・・・・・。」
「どこだ。奏太っ。」
「一人だから・・・。」
プツッと電話は切れた。
きっと電話をかけ直しても無駄だ。家に帰ってないと言った。だとしたら、会える可能性はゼロじゃない。
デスクに戻ると課長に今日は体調が悪いので帰らせてくださいと告げた。よほど顔色が悪かったのだろう。「真っ青だぞ、大丈夫か。すぐに病院へいけ。」と、帰された。
「すみません。」
荷物を持つと会社の前にあるタクシー乗り場に向かう。
タクシーに乗り込むとホテルの名前を告げる。
奏太と会ったあのホテル。それ以外思いつかない。今回の件にあの男が関係しているとしたら会える可能性は高い。
そこにいて欲しいという気持ちと、いて欲しくない気持ちとが綯い交ぜになって苦しい。
フロントに到着する。白紙の神を四つ折りにしてそれをフロントに渡す。
「すみません。こちらにお泊まりの尾上奏太さんにこれを渡していただけませんか。」
奏太の部屋を教えてくれるはずはない。これしか方法は思いつかなかった。
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