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甘露
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「瑞樹・・・今日、会社は・・。」
「休んだ。」
「そう・・・あのさ・・・俺・怖いんだ。」
「え?何が・・?」
「今、誰を傷つけるとしても瑞樹の手を離したくない。たとえ誰を苦しめても。こんなに自分が強欲だとは思わなかった。」
「もう丸ごと引き受けたから。俺たち遠回りは十分したよ。」
「でも・・・ん・・・っつ。」
うるさい口は塞ぐに限る。こんな話を二人並んでする余裕が今はない。奏太は驚いたような目をして俺を見た。
「瑞樹、本当にいいの?」
答える代わりにもう一度深く口付けて、ゆっくりと口内を舐め上げる。
「ふ・・。」
奏太の目尻が赤く染まる。瞳には薄い膜が張っている。それは今にも破けて、はらりとこぼれ落ちそうだ。
「俺は何が正しくて何が間違っているのかわからない。今までのお前の選択も俺の選択も。でも、今は一番進みたい道を選ぼうと思う。お前は?」
「何を犠牲にしても離したくない。嫌だと言われても・・・。」
「それ・・・俺には勿体無いくらいの答え。」
正直になる。過去は変えられない。けれど未来は選択できる。今、間違えてしまったらまた辛い過去を上塗りするだけ。
考えると気が重くなる現実はある。けれど、そこから逃げていても活路は見いだせない。だから、今を大切にして、目の前の奏太に真剣に向き合う。俺にはそれしかできない。
幾万の言葉を紡いでも触れた肌から伝わる想いにはかなわない。
だから言葉より先に肌を重ねる。重なる時の中で、重ね合う肌の温もりはこんなにも甘くて切なかったのか。
俺達の交わりは常に互いの温度が違っていて、傾いたバランスのままの繋がりだった。でも今は、二人の心音が同じ速度で加速していく。同じ温度で同じく速度でお互いを求めている。
「瑞樹、ありがとう。」
囁くような言葉が降ってきた。その瞬間に一気に体温が上がり身体が総毛立った。
「どうしよう。今ものすごく奏太が欲しい。」
奏太はこくんと小さく頷いた。
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