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Ω
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「んんっ…も…やめ…っろ…!」
谷原を押しのけて俺は玄関に走った。
俺が変わったからなんだ。だからって谷原と番になるって事じゃない。俺の中で谷原が本当は良い人なんだって事を認めただけだ。
好き、なんかじゃない。
「海斗!」
俺を呼ぶ声に振り返りはしないけど、ドアノブにかけた手をぴたりと止めた。
「海斗…いつでも来ていいんだからな、ここに。」
すぐ後ろで谷原がそういうから、俺は手にグッと力を込めて扉を開き、何も言わずに出て行った。谷原は追いかけては来なくてとりあえずホッとした。その反面、ちょっと胸がツキンとする瞬間もあったけど。
俺はとぼとぼと、まだほんのりな明るさの道を歩く。起きた時よりは陽が昇ってきたけれど、まだ街が動き出すには少し早い。家までは遠いわけじゃない。バイトの帰り道とそんなに変わらない距離だけど、何でかな、今日は凄く足が重い。きっと、風邪がまだ治りきってないからだ。
そう思おう。
家に着いた頃には陽も上がりきっていて、家に入ってリビングを通った時に、もう何日、何ヶ月振りという規模で母と会った。会った、というだけだけど。朝帰りの息子を咎めるわけでもなく、俺はまるで目には写らないものとして、テキパキと朝ご飯を作ってる。それでも俺は「おはよう」と声を掛けた。チラッとだけこっちを見たけど、またすぐに視線は外される。
Ωの息子にどう対応するか掴みあぐねている、というには少し辛辣だよなぁと思いつつあるけど、ここまで来るともうなんでもいいなと思えてくる。Ωの息子にどう接していいか分からないのか、ただただ煩わしいと思っているのか、最早どちらであってもこの状況は変わらないのだし。
俺は母の後ろ姿を見て、小さなため息をついて自分の部屋に向かった。部屋に入る前に、雅が自室からまだ眠そうな顔を出して体調の心配をしてきたが、これ以上心配をさせるわけにもいかず「大丈夫だよ、ありがとう」と言った。可愛い顔が更に可愛く微笑んでまた部屋に戻っていった。この天使がいるから、俺はこの家にいれる。もし俺が家を出たら、両親は喜ぶだろうが、きっと雅は悲しむだろう。今までずっと雅は俺の味方で居てくれた。雅を悲しませるなんて俺がしていいことじゃない。
「だから俺は谷原の家には行けないんだ…」
と自分に言い聞かせるために小さく呟く。
部屋に入って真っ先に机の引き出しを漁る。まさかこれを飲む日が来るとは思ってなかったが、Ωだと分かった日からずっと持たされてきた抑制剤と避妊薬。後避妊薬もちゃんと持っている。行為から72時間以内に飲めば効果はある。100%ではないが、ほとんど避妊に成功するはずだ。発情期だったとはいえ、どうして避妊をしなかったのか、今更しても遅い後悔をする。抑制が効かない事こそがΩの証のような気がして、後避妊薬を飲まなきゃならないこの状況に腹が立つ。
「はっ…情けな…」
自嘲して、俺は後避妊薬を飲み下した。
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