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嘘吐き
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家に帰ると雅がリビングのテーブルで勉強をしてた。本当に勉強熱心なえらい子だ。雅は俺に気付いて「お帰り」って笑った。雅はきっと、今日俺が学校を早退した事を知らない。
「ただいま。また勉強?偉いね」
「やっておかないとついていけないから」
「嘘だぁ。」
「本当、本当。頑張ってるから学年首位取れてるんだもん。何もしなかったら酷い事だよ。」
「雅ならしなくても大丈夫だよ。」
「もう、いっつもそう言うよね!僕だって頑張らなきゃ出来ないこといっぱいあるんだから。…それより、風邪はもう平気?」
「うん、大丈夫。…あのさ、俺、家出ることにしたから。」
「え、なんで?」
「夜遅く帰ってくるのがあんまり良くないみたいでさ、バイト先が安く部屋貸してくれるって言うんだ。学校とバイト先のちょうど間くらいにあって、どっちも近いから便利なんだ。」
「でも…」
「それに、母さん達にもそんなに顔合わせる事ないし。今でもここには寝に帰ってるだけって感じだろ?正直、家にお金入れるよりバイト先で部屋借りた方が安いんだよね。」
こんな嘘、よくもスラスラと出たものだなって我ながら呆れる。雅は寂しそうな顔をして「そっか…」って言った。雅は家の事情を分かっているから、そう言われたら何も言えなくなることを分かってる。雅は母さん達から優遇されてるから、何も言えない。俺はそれを恨んだことはなかったけど、ごめん。そんな弱味につけこんで…
「いつ…出て行くの?」
「今日にでも。早い方がいいんだって。」
「…本当に急だね。」
「ごめん。俺もさっきこの話聞いたんだ。悪いんだけど、母さん達には雅から言っといてくれる?」
「分かった。借りる部屋の住所分かったら教えてね。」
「うん」
荷物を纏めるからって言って二階の部屋に上がる。持って行くものなんて大してない。着替えを詰め込んだだけのカバンを持ってすぐに部屋を出る。雅はまだリビングにいた。
「雅、もう一つお願い」
「なに?」
「俺の部屋にあるもの、捨てていいからって伝えて。」
「え、でも、いつかは戻ってくるでしょ?」
「うん、でも、使わないものしかないから、下手に取っておくくらいなら捨てた方があの部屋も別に使えるだろ?」
「…そうだけど、あれは海くんの部屋だから…」
「分かってるって。有効的に使ってって事。捨てないなら捨てないでいいからさ」
「…分かった」
腑に落ちない顔をする雅の頭を撫でた。天使な雅に会えなくなる事は、心残りだな…
「じゃあ、行くわ。」
「うん…ちゃんと住所教えてよ?」
「分かってるって。学校でだって会えるだろ?」
「…うん、そうだよね。」
「あ、そうだ。雅、彼氏と仲良くな。」
「…え、彼氏って…」
俺が知ってることに驚いた顔。
「騙しやがって、バーカ」
たまには弟を、弟扱いしたっていいよね。
「…えへへ、ごめん。」
「じゃあな。」
「うん、気を付けてね」
そう言ってついに俺はこの家を後にする。
それも、
大切な大切な家族に、嘘を吐いて。
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