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偶然
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海斗がいなくなって早3年。雅に聞いても西に聞いても、海斗の居場所は掴めない。他に海斗が行きそうなところを知る者に心当たりもなかった。雅はずいぶんと悲しんでいた。最後に会ったあの時にどうしてもっと引き止めなかったのか。そう嘆いていた。
でも、俺だってそうだ。
どうして何も言わずいなくなってしまったのか。
あの日、あの時、想いは通じ合ったんだと思ったのに。
海斗の事は何も分からないまま、無駄に3年という月日が流れて、俺は違う学校へと転勤になった。どんどん遠く、1日1日が経つ度に離れて行く、そんな気持ちになる。思い出らしい思い出もない。けど、海斗は間違いなくそこに居たのだ。その街を離れるなんて…
見慣れない街、どこに続くかもわからない道、使い慣れない店。それでも生きるためにはそこに住み、そこを歩き、そこを使う。閑静な住宅街の中では比較的大きめのスーパーが家と学校の間にあって使いやすく、最近は専らそこで食材を買うようにしている。
早めに帰る事が出来た今日は、少し手の込んだ料理でもしてみようか。
そんな気持ちで立ち寄った。
何を作ろうかと食材の値段を眺めながら考えていたら、子どものはしゃぐ声がする。子どもと一緒に買い物をするって、結構大変そうだよなぁと声を聞いて思う。どこにでもある親と子の会話だけど、ちょっと友達みたいな感じもあって面白い。親が子どもの目線で話したりしてるからなんだろうなぁ。
少し笑いながら、聞こえてくる会話を聞いていると不意に物音がした。会話から察するに子どもが走り出して物にぶつかった様だ。盗み聞き…とまでは言わないが、それらしい事をしていた手前、なんだか放っておくというのも出来なくて音がした辺りを窺う。
2、3歳くらいの男の子がしゃがみ込んでいて、その近くには親がいて落ちた物を拾っている。割と派手にやらかしていた。
「お店の物が壊れちゃうかも知れないし、空も怪我したら大変だからね、もう走らないって約束して?」
「…やくそくする」
そう言って親は子どもの頭を撫でた。子どももこうなるとさすがにしおらしくなるらしい。
親が辺りを見渡して、多分他にないかと確認している。その時に俺は初めて親の顔を見た。それまでは後ろ姿だったけど、こちらを振り返り少し遠くに飛ばされた箱を見つける。その箱は、親よりも俺に近く、俺はすぐにそれに手を伸ばす。
心臓が高鳴っている。
離れた場所で見えた顔。
それは間違えようもない。
どうしておまえは、ここにいる?
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