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黒髪達の秘かな活躍
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開会式も終わり、10分の準備時間を用いた後にさっそく球技大会は幕をあけた。
一回戦の熱気に包まれた体育館の蒸し暑さにやられたハルトは、瞳をキラキラさせて会場を見守るシュウの隣でうなだれていた。
「なんでお前はそんなに元気なんだ」
「楽しいからに決まってるじゃん!みんなが本気でぶつかりあっているし!」
「どこかの熱血バカがうつったか」
教師と会話しているどこかの熱血バカを睨みつけ、ハルトはシュウにもたれかかった。
突然肩に触れる体温にピクリと反応し困惑気味に見つめ返すシュウ。
ハルトは少し疲れたような声音でシュウの肩に頭を預け「ちょっと貸せ。寝る」とだけ言い置き目を閉じた。
反論すら許されなかったが、ハルトのような人間には人口密度の高く白熱した空気に支配された空間にいるだけで疲労がたまっていくことを知っていたので、それ以上何もいわずシュウも少しだけ彼に身体をもたれさせる。
ほんのりハルトの香りが漂ってきて、やさしい気持ちにさせてくれた。
その後、彼らは順調に勝ち進み無事ヒナト達のクラスと当たった。
しかしこちらの疲労と向こうの体力の差と実力の差は歴然としている。前の試合の相手がやけにしつこくて疲れきっていた。
勝利を確信した笑みを浮かべたヒナトがわざわざ挑発にやってきたときは、リョウ以外の生徒が徒労感にまみれた殺気をだしたほどだ。
「よぅ。ずいぶん疲れてんじゃねーか?んなんで俺らに勝つとかふざけてんのか?」
「ふざけてなどないさ。たとえどれだけ疲れていようとベストを尽くすだけだ」
爽やかに言うリョウのじっと見つめ、ヒナトはあごに指を添えて再び煽るような嘲笑を浮かべた。
「はっ!口だけだったら何でも言えるんだよばぁか!それより約束覚えてんだろーな?負けたら女装しろよ?俺のクラスには優秀な写真部がいるから安心して恥をさらせ」
「写真に撮られるのか!?」
「大丈夫。サガラなら、可愛いから」
おかしなフォローを繰り出したユツキは、どこかフワフワした様子のシュウを見下ろした。その視線に気づいたシュウが顔を上げる。
「なんだユツキ?なんかついてる?」
「………いや、シュウも、似合いそうだなって」
なあハルト。とユツキはさり気なくハルトに話をふる。
ハルトは若干冷や汗を流しながら「なんで俺に言う」とそっぽを向いた。
「おい!俺を無視すんじゃねぇ!殴るぞ!」
放置されていたヒナトが悔しげな怒鳴り声をあげたので、すかさずリョウが彼の頭を気安げに軽く叩いた。身長さがちょっとだけあるのでリョウが手を伸ばす形になっている。
「はははっすぐ物騒なことを言うのはやめろよ。せっかくの整った顔が台無しだぞ」
「なっなにするんだよ!離せ!とっとにかくぼっこぼこにしてやっからな!」
真っ赤になったヒナトが慌ててリョウの手を振り払い、捨て台詞を叩きつけながら自分のクラスの集まりに戻って行った。
「なんで頭なでたんだ」
「ああしたら前は微妙に喜んでたのになぁ…」
「………」
何か聞きたそうなハルトだったが、結局口を開くことはなかった。
そして彼らにとっての本選が始まる。
じゃんけんで負けてしまったが、ボールの有無で決着は定まらない。中身が重要なのだ。どういった戦略でどういった相手をつぶしていくか。策と力ですべてが決まるのがスポーツなのだ。
「はっ楽勝だな。リョウがそいつらの何を買ってるのか知らねえが、すぐ終わるぜ?」
「まったくお前はすぐに人を見下すな。まあお前らしいが」
前線でそんな会話を悠々と交わす二人だったが、突然リョウが不敵に頬を綻ばせた。
「なんで俺たちが2回戦での3年生戦を勝てたと思う?」
「あ?んなもんその3年が弱かったってだけだろ」
「それもあるかもしれないが」
さらりと上級生を揶揄したが彼らの他に堂々と中間ラインをまたいで会話をしている人間はいなかったので、幸いにも他の生徒には聞こえていない。
「俺たちには秘密兵器があるんだ」
「ったく。また負け惜しみをほざくな。んなのどこにいやがるんだよ!」
ボールを持っていたヒナト側の生徒が、投球の構えに入った。
狙いは多分、隅っこの方でまたもや自分の世界に浸っているシュウだろう。一番最初に狙うようにヒナトが先に言っていたのだ。
あのボケっとしたアホチビがあたりゃ、ハルトの野郎も悔しがるだろうしな。
ハルトの精神ダメージと怒りを想像してヒナトは舌を突き出す。
だが、投球ポーズに入った生徒の表情が一気に固まる。まるで麻痺薬を盛られたようなほどぎこちない動きに変わり、あらぬ方向に飛んで行ってしまう。
「おい何やってんだ!へたくそ!」
「でっでもよ!あのぼけーっとした野郎の後ろにいる奴が………!」
「ああん?」
下手な言い訳だったらしめてやろうと残酷なことを思いつつ、はためいてるアホ毛の方に顔を向ける。
するとヒナトまで口を噤んだ。
お花畑を夢見ているようなまなざしで虚空を眺めている天然の後ろには、殺伐とした脅しを瞳に宿した殺人鬼がいた。
眼光だけで人を委縮させるに飽き足らず、戦意まで失わせれるほどの威力を誇ったハルトの目が喋れるならきっとこう言っているだろう。
「こいつに手出したら…殺す」
明確な殺意に竦んだ男の背中を強くはたき、ヒナトは面白いと口角を釣り上げる。
「上等だコラ!そんぐれぇ張り合いがねぇと楽しくねえからなぁ!」
飛んできたボールを受け止め、ヒナトは極悪な冷笑を張り付けながら振りかぶった。
しばらくキャッチボールが続き、とある男子生徒がちょこまか動くサガラに向かって投げるが、軽々交わされてしまう。チッと軽く舌を打つと同時に、ぞくりと背中に悪寒が走る。
恐る恐る視線の元をたどってみると、いつも穏やかな表情をしているはずのユツキのポーカーフェイスが歪みに歪んでいる。更に戦慄が生徒の全身を襲った。
「お前、今サガラを狙ったな?」
普段の穏やかさなど吹っ飛んだ口調と目つきに、生徒が一歩後ろに下がった。
ユツキの手には一つのボール。やわらかい素材で作られているソフトボールが、彼の爪によって歪な形に変形している。
「覚悟しろ」
そんな物騒なセリフとともに放たれたレーザービームが、生徒の顔面に見事なほど綺麗に直撃した。
「みんながんばってるなぁ…」
コート内の熱気とアウェイなシュウはぽつりと呟いた。
彼の立ち位置は外野になっている。ハルトのひそかな活躍によりしばらく当てられなかったが、脅しの視線に唯一屈しないヒナトにぶち当てられたのだ。
その時のハルトの形相がものすごいことになって代わりに怒ってくれたので、シュウの悔しさやふつふつとした苛立ちはどこかにいってしまった。
それより怒れるハルトによる被害がどこまで広がるか心配で堪らなかった。
「いやーすごい奴らが残ったなー」
なんやかんやで当てられてしまったサガラが茶化すように言った。当然のような顔で傍にいるユツキもこくりと頷く。
余談だがユツキはサガラを当てた男子生徒をきっちり静粛して、すぐ自分も当てられた。愛の力とは素晴らしい。
話に戻るが残ったのは自軍チームではリョウとハルト、敵チームはヒナトだけとなった。
2対1という絶体絶命の状況でもヒナトの憫笑は消えない。
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