アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
fight it out
-
ハルトは動かない。脇にボールを挟んでいるので受け止めることは難しい。なのに彼は動かない。
「当てやすい的だなぁおい!」
勝利を確信したヒナトが諦めきった愚者に制裁を加えようとするが、動かぬ的が意外なタイミングで後手に回った。
ヒナトに当てる気のない軌道を描いていったボールに、目を釣り上げながら「どこに投げてんだコラァ!」と苛立ちを加えた一撃を放つ。
ハルトに、彼を狙った球が襲いかかる。
恐ろしいコントロールからギリギリ逃れるがバランスを崩して右の掌と左膝が一瞬床についてしまった。
体制の乱れを見逃すほど、ヒナトのクラスのチームワークは緩くない。
すぐさまボールを受け取った仲間の一人が拾いあげ、ハルトへの追撃を開始する。
勝った!とヒナトが歓喜にうちふるえていると、背後から敵意を感じたので素早く振り返った。
よわよわしいスピードで迫りくるボールを掴み、投げてきた生徒へ射すくめる視線を向けた。
「アホチビぃ!俺の不意つこうなんていい度胸じゃねえか!」
「うわぁばれてる!」
怒鳴られて怯えてしまったシュウに鼻をならした瞬間、背中に痛烈なダメージを受けた。
「あぁ゛!?」
「背中が御留守だぞ。このアホ野蛮人」
急いでまた振り返ってみると、豪胆な冷笑を浮かべるハルトが。
「なっなんでてめぇ!あんなにバランス崩しといてよけれるわけねーだろうが!」
驚きのあまりどもりながら尋ねるヒナト。
彼が見たときはほぼ転びかけだったのに。
あり得ない現実に目を覆いたくなる。
「俺がよけきれないとでも?」
野性的な仕草で汗をぬぐい、ボールを拾い上げる。
ヒナトはまだ信じ切れていないようだったが、自分が負けたと理解すると怒るような真似はせず、盛大に悔しそうなうめき声をもらした。
それと同時にホイッスルが高々と鳴り響いた。
「ハルトー!よくやってくれた!」
歓喜に満ち溢れた雰囲気に囲まれたハルトはどこかうんざりした様子を見せたが、振り払うようなことはしなかった。
「お前まじすげぇよ!なんであそこから側転して、しかもボールとれるんだよ!神か!」
「ふつうだろ」
「ていうかなんで3つボールあったんだ?」
「先生にお願いしまくった」
「俺、ボールとることすらできないんだけど…」
「よーし!この調子で次も勝ち進むぞ!」
悲しげにアホ毛を揺らすシュウの言葉は、リョウの鼓舞でかき消された。
一致団結したクラスメイト達が移動するさい、シュウはハルトを捕まえた。ハルトは真顔で「なんだ」と要件を尋ねる。
「あのなあのな!」
小さい幼子のように単純な単語を連発して、ぐいっと顔を近寄せてきた。
「さっきのハルト、すごいかっこよかった!」
爆弾発言をされた。
キラキラした愛らしい顔立ちを至近距離で直視し、そのうえ感激しきった声音で「かっこいい」と言われ、ハルトの頬に急激的な熱が集まる。
「な………!」
「おいシュウー!」
「あっ先行ってるな!」
んじゃ!と言いたいことだけ言って去って行ったシュウの背を見て「なんだったんだ…」と悔しそうに頬をこすった。
自分でも笑ってしまうぐらい熱かった。
結局次の試合には負けてしまったが、全員満足したらしい。いい思い出になっただろう。
負けの敗因は、主戦力であるハルトが上の空だったことが原因だったのは秘密である。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 106