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「よぅ負け犬」
球技大会の次の日。
2Aには数十人の別クラスの生徒たちが集まっていた。
ハルトを先頭としたグループを他に、噂を聞きつけた野次馬たちが続々と集まっている。
リョウが今外であしらっているがどれだけ軽減されるだろうか。
「なんだよおい!教室にまで押し掛けるなんざ気がふれてんのかあぁ!?」
必死で悪態をついてみるが、ヒナトの相貌が絶望と焦りで染まっているのでシュウもあまり怖く感じなかった。
「約束覚えてんだろ?」
サガラの、にまにました顔が気に食わないのか、ヒナトの眉間にものすごい勢いで皺がよる。
「覚えてるっ!」
ここで知らない、と答えない彼は正直なのかもしれない。自分で自分の首を絞める答えを出さねばならない自身に苛立ちを覚えた。
「ならさっそくやってもらおうか?」
「ちょっとまて!今、昼休みだってわかってんのか!」
時刻はちょうど昼休みが始まったころだ。てっきり放課後にやると思い込んでいたヒナトは狼狽する。
するとハルトが昨日のヒナトのような蔑んだ含み笑いをした。
「わかってる。理解したうえで押し掛けてる。罰ゲームの詳しい日時などは決めていなかっただろ?詳しいことは、な」
ハルトがあごをしゃくると、ユツキとサガラが同時に動いた。
素早くヒナトの懐に潜り込み両脇を確保して逃げれないように拘束する。その見事な連係プレーに歓声が波立った。
「ちっ畜生があああ!」
「ひっヒナトー!」
ずるずると引きずられていくヒナトをどうにか助けてやれないか。善意なリョウが幼馴染を助けるための打開策をひねり出している間も、ハルトはまだ黒く微笑んでいた。
シュウは猛烈な懺悔の念に襲われていた。簡易的な教室から響き渡る怒声や悲鳴、暴れる音が彼の罪悪感を煽る。
「なっなあやっぱりやめてやらない?」
「馬鹿なこと言うな。あっちからふっかけてきたんだぞ。俺たちが遠慮する必要などどこにもない」
悪魔のような無表情で言い放つハルトにシュウは「うげぇ」と少し身を引いた。
自分に逆らってきた奴や、敗者には容赦の欠片も抱かせない鬼のような性格をしているとは知っていたが、まさかここまで慈悲がないとは。とんでもない幼馴染をもったものだと嘆息する。
すると教室内から絶えず響いていた大声が突如消えた。
「なっなんだこれ!?」
一拍の間を挟んだ後、ヒナトの今日一番の悲鳴が聞こえてきた。
「終わったらしいな」
どこか笑みに黒い影が差したハルトが遠慮なく教室のドアを蹴り開けた。
シュウはヒナトの女装姿に対する恐怖でドアの奥で震えていたが、すぐさまハルトに首根っこを掴まれて教室内に引きずり込まれた。
「おっおい馬鹿入ってくるんじゃねえよ!」
慌ててヒナトが怒鳴るが、その頼みをきく心やさしき者はここにはいない。
「ぶはっ!めっめちゃくちゃ似合ってんぞおい!」
躊躇なく噴出したサガラの後ろでは同じく笑いをこらえて震えているユツキがいた。
そのめちゃくちゃ似合ってるを批評されたヒナトを見るのが何故か恐ろしく、しばらく目を塞いでいたが溢れる好奇心には勝てず、ハルトの背中に隠れながらそっと覗き見た。
「ん?誰?」
シュウが疑念の言の葉を呟き落とすと、目つきの鋭い女子高生がすごい形相でシュウを捉えた。
「なんだアホチビ!喧嘩売ってんのか!」
「えっええ?ヒナト!?嘘!」
学校指定の女子ブレザーと短めのスカート。髪の毛は薄い茶色でウェーブがかけられており触ったらふわふわしてそうだ。ウィッグだろう。筋肉質だが、陸上部だと言われれば理解できそうなほど長く綺麗な足だった。目つきが鋭すぎるのが難点だが、十分合格点をオーバーする美少女だろう。
その美少女が自分が苦手とする人物とリンクし、シュウは卒倒しそうになる。倒れたいのはヒナトの方だ。
「うわすごい!すごい似合ってる!美人!」
「まったくこれっぽっちも嬉しくねぇんだよ!馬鹿にしてるようにしか聞こえねぇんだが?」
不貞腐れるヒナトだったが、眩い光に顔をしかめながら顔をそむける。
「何してる。顔をそむけてたら撮影会にならないだろ?」
いつの間にか戻ってきたハルトの後方にはおとなしげな少女。一眼レフカメラを構えてぱしゃぱしゃ写真を撮っていた。シャッターを切る音が絶え間なく続く。
「おいいいい!何やってんだ一之宮!」
「だって!ヒナト君の女装姿なんてそうそう見れるものじゃないわよ!ここはたくさん撮って売りつける!」
「やめろオカッパ頭が!んなことしたらぶんなぐるぞ!」
「女の子は殴れない癖にーはい、ちょっとポーズとってみようか?こうグラビア的な感じで」
「誰がやるか!」
シャッター音と言い合いする男女の声音がやけにこだまし、混沌とした世界を作り上げていた。
「ハルト…俺、もうなんか怖い」
後ろにいるはずのハルトに話しかけてみるが、返事が返ってこなかったので振り返ってみると、隅っこの方でお腹を押さえてぷるぷるしていた。時たま耐えきれなかったように「ぶほっ」や「くくっ」と聞こえてくるので彼もまた必死で爆笑を抑えているようだ。
「………俺、なんでこいつと幼馴染やってるんだろ」
冷めた瞳でシュウは虚空を仰いだ。
大量に写真を撮られたヒナトは見ているこっちが可哀そうになってくるほど疲れていた。
精神にひどいダメージが何度も襲って来たのだ。彼のプライドや自尊心といったものは砕け散っているのかもしれない。いつもの堂々としたオーラがしぼんでしまっている。
「さて、写真撮影を終わったことだ。疲れただろ」
「誰のせいだと思ってやがる…」
「ジュースでも買ってきていいぞ?」
「まっまさかてめぇ………!」
そのまさかだ。ハルトは素晴らしいほど晴れ渡った微笑をたたえ、ドアの方を指差した。
「ちょっと散歩して来い。もちろんその格好で」
「ふっふざけろくそがあああ!それはさすがに無理があんだろうがっ!」
泣きそうになりつつ見事なシャウトを轟かせたヒナト。
ここまでの辱めを受け、その上まだレベルの高い罰ゲームを申し出られたのだ。アイデンティティが崩壊しかけている。
「拒否権はなしだ」
だが悪魔の化身のような男はやっぱり手加減をしない。
面白がって傍観を決め込んでいたサガラが楽しそうに手をたたいた。
「それいいな!」
「やらねえに決まってんだろ!」
「罰ゲームはどうした」
「ぐっ!」
逃れようのない悪夢から必死でもがき苦しむが、悪魔の化身が楽にしてくれない。勝者の権限をフルに使われると、強者主義のヒナトは何も言えなくなる。
「おいもう終わったか?」
絶妙なタイミングで、見学者をすべてあしらい終わったリョウが教室に入ってきた。
急な登場に、心の準備どころか何も構えていなかったヒナトが慌てて机の陰に隠れようとするもあまりにも遅すぎた。変わり果てたヒナトを見つけ、リョウは一瞬瞠目した後、信じられないニュアンスを含んだ声で「ヒナトか?」と尋ねた。幼馴染の変わりようをすぐには信じられないようだ。
「うっせぇ見るな!」
こんな情けない姿を見られ、猛烈に死にたくなった。リョウに爆笑されたら本当に精神が折れてしまいそうだ。
リョウはヒナトを見つめ、やがてにっこりと笑った。
「すごく似合ってるぞ!一瞬、誰だか分らなかった!」
「は?」
「うっかり惚れかけたぞ!」
冗談めいた言葉に、ヒナトの顔面に熱が集まって行く。ユニークさを秘めた声音だったが、それ以上に投げかけられた感想の内容に気がとられてしまい、冷静な判断ができなくなっていた。
「嘘言うな!こんな格好俺に似合うわけねぇだろ!」
「嘘じゃない。本当だ!外歩いてもばれないんじゃないか?」
リョウの何気ない一言に、ハルトが瞬時に反応を示した。
「とリョウも言っている。ついでにお前も行って来い」
「え?よくわからないが、ヒナトと散歩してきたらいいのか?」
この状況がいまだによくつかめていないが、一応ハルトの意図をくみ取った返事を返すと満足げに頷き返された。
「よしなら行くぞヒナト!」
「まっ待てリョウ!俺は嫌だ!」
まだ渋るヒナトに、リョウは白い歯をこぼして見せた。さわやかさ満点の微笑みを向けられ押し黙ってしまう。
「大丈夫だ!誰もお前とは分からないさ!」
「そういう問題じゃ…!ちっ畜生があああ!」
リョウに対しての中傷は不思議と出てこないので、ヒナトは本領を発揮することなく引きずられていった。
「リョウも大概天然だよなあ」
「それお前が言うか?」
シュウの呟きに、サガラ肩をすくめて軽く腹にこぶしを突き入れた。
「面白すぎる…今日は最高の一日だ」
どこまでも鬼畜なハルトの笑い声が、重く響き渡った。
その次の日から、一緒に歩いていた美少女の素性を調べ上げようとリョウに殺到した男子がいたそうだが、必殺極悪スマイルで黙らせたそうだ。
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