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謀略の結末
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数分後戻ってきた二人を確認し、サガラが椅子を蹴りあげてユツキの元へ駆け寄った。
「ユツキどこ行ってたんだよ!」
ちょっと拗ねたような態度のサガラにユツキは表情を柔らかくさせる。
「ちょっと、ハルトと話を」
「俺には言えないことなのか?」
むすりとサガラは今にも頬を膨らましかねない不機嫌さだ。
自分に黙ってハルトに連れられてどこかへ行ってしまって寂しく思っていたのだろうか。
いつもユツキとべったりなので少しの間でも離れるとすぐイライラしてくる。これはもう依存というか麻薬みたいなものだった。
「そうじゃない。男同士の話」
あっさり否定するユツキをハルトは横目で睨みつけた。何が男同士の話だ。
「男同士!?まっまさかそういう関係で…!?」
息を荒くした一之宮が机を破壊しかねない力で立ち上がった。
その手にはさっきさんざんヒナトを苛め抜いた立派な一眼レフが。
「それで何を撮るつもりだ」
「そっそれは!乙女に言わせるつもり?」
「乙女はそんな興奮したような鼻息をださない」
変態を冷たくあしらい、ハルトはまだ空を眺めているシュウに向き直る。
その瞳には先ほどまではなかったある目標を到達するためへの近道を演算する機械が投入されたように思えた。
「シュウ」
「ん?なにハルトー」
声をかけられ夢の世界から戻ってきたシュウは、目を擦りながら前に立ちふさがるハルトを見上げる。
静かな相貌で見据えてくるハルトの考えが読めずシュウは戸惑う。
ハルトの言葉を待つがじっとシュウを眺めるだけでなにも発しない。
実際このときハルトは先ほど打ち合わせしたとおりに動こうとしていたのだが、いざとなってみれば口が縫いつけられてしまっていた。
そんなハルトの葛藤を知らず、シュウは少々困ったような口調で言った。
「だからどうしたんだ?そんなに見るなよ、穴があく!」
「あくわけないだろ。それとも開けてほしいのか」
「ならなんだ?」
妙にせかしてくるシュウに背を押され、ハルトの決心が定まった。
「ここにトランプがある」
「え?どこから出してきたんだ?」
なにもないところから二枚のトランプを取り出したハルトに、シュウはいろんな意味で目を見張った。
マジシャンばりの器用さにサガラが興奮したように手をたたいた。これでサガラもハルトに集中するだろう。
「そんなことは重要じゃない」
「いや結構必要だと思うんだけど…」
「いいから黙れ。シュウ、俺と勝負しろ」
「え?」
「ジョーカーをひいたら負けだ」
唐突な勝負発言に、シュウは驚きを通り越して呆れが勝ってきた。
反論の余地を許さず、淡々とカードを流れる手つきで混ぜる。
理由は分からないが、急にハルトがお遊びに興じたくなったのだろう。意味はないかもしれない。
シュウもよく訳はないがかまってほしい時がないとはいえない。その都度ハルトに拒否されるが。
だからシュウもハルトの申し出を切って捨てることができる。もちろんそんなことしないが。
「いいぞ!どっちひこうかなー」
「先に言っておくが負けたら罰ゲームだ」
「へ!?なっなんでだよ!」
「気まぐれだ」
「ちなみにどんな内容なんだ?ヒナトみたいな目にあうのは嫌だけど」
「………」
むっつり黙りこんだハルト。
「え?なんだその間は?」
不安そうな表情をするシュウに、いいから早くとトランプを押しつける。
強く促すと事情が飲み込めなくても無理にでもひかなければならない心情に陥ってしまうものだ。馬鹿にはなおさらよく効く。
ハルトとユツキが作り出した作戦はこうだ。
まず両方ともジョーカーのトランプをひかせ、100%の確率でシュウを負かす。
そして強制的に罰ゲームへつきとおし、その流れでユツキも同じ手を使う。
そうすればハルトとユツキの願望は同時に叶えられる。
ずるい気がするがそんなこと気にしていられない。
結果が出れば過程は気にしないハルトだった。
「うっうーん…どっちにしようかなぁ」
両方ともアウトカードなのを知らずにシュウは真剣に悩んだ。
負ければヒナトのような恥しめにあうのがなんとなく察せられて、ここは真面目にやらなければ後々後悔しそうだ。
右左右左とカードを引く手がうろうろ移動する。
そのまごついた動きにハルトのこめかみがひくつきはじめた。
「早く引け。遅い」
「だっだって!こんなん悩むに決まってんじゃん!」
「どうせどちらを引いてもおまえは負けるんだ」
「そんなのわかんねえじゃねえか!」
「いや俺には分かる」
そりゃ仕掛け人が罠の内容を知らなかったら笑い物である。
さあ早くしろ!と目線で訴えるとしぶしぶシュウが左のカードに狙いを定めた。
やけに強張った指をカードに触れさせたのと同時に。
きんこーんかーんこーん
原始的なチャイムが鳴った。
「は?」
「あっやべ!これ予鈴じゃねえか!」
「さっサガラ…」
「なにぼさっとしてんだユツキ!とっとと教室戻るぞ!」
名残惜しそうに片づけられていくゴスロリに手を伸ばしたが、逆の手をサガラにとられ力づくで引っ張られていってしまった。
「ハルト!ぼーっとしてないで…ってなんで落ち込んでるんだ?」
膝を床につかせて、滅多に見せない弱った姿でうずくまるハルトに、シュウは肝を潰されたのかと思った。
「…いや、またのチャンスを狙うしかないか…」
一番の敵はタイミングの悪さだとハルトは悟ったのだった。
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