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君の速さで
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ゆっくりめのスピードでハルトは、時々後ろを振り返りながら歩いていた。
どんくさいシュウに歩幅を合わせていたらいつまでたっても目的地にたどり着けないので、さっさと進んでいたのだが、さすがに可哀そうになってきた。
ちらちら後ろのシュウに視線を送ってみると、困った顔で通行人を押しのけている。
帰宅ラッシュ時の歩道は大量の人間であふれかえるので、前から歩いてくる人たちに進路を邪魔されてもがいていた。
小柄なシュウだからこそできる芸当だ。
長身のハルトにはとても真似できない。
しかも後ろから早足で急いだ女子高生にぶつかられている。
ただでさえ危いバランスを保っていたシュウの体が右に大きく揺れた。
倒れこむ寸前で何とか踏ん張ったが、その際に隣にいたサラリーマンの肩に頭を強くぶつけてしまった。
「あっすみません!」
慌ててシュウは謝るが、サラリーマンは不快そうにシュウを睨んで何も言わず立ち去ってしまった。
無視されたうえに迷惑をかけてしまったので、シュウは目に見えて落ち込んでいる。
ハルトは舌打ちをかまし、シュウの元まで戻った。
しょぼんっとしていたシュウは夕陽を遮ったハルトの影を見上げた。
「はっハルト…なんかゴメン」
いたたまれなさに思わず謝ると、ハルトの眉間のしわが一層寄った。
ここは少なくとも申し訳なさそうにする場面ではないのだ。
そんなに弱気だから理不尽に睨まれたことに怒らず落ち込む。
「さっさと来い。本気で日が暮れる」
ハルトはシュウの手をつかみ、強引に立ち上がらせる。
唐突に上向きに力が加えられ、困惑する前にシュウは強制的に起立させられたる。
「あっありがとう…」
情けないシュウを起こすためだけに握られた手を、シュウは離そうとしたが思いのほか力強く握られていたので彼ごときの握力でははずせなかった。
「行くぞ」
ハルトはシュウの手を取ったまま家路を急いだ。すごいスピードで引きずられていくシュウに、周りの群衆が何事だと好奇のまなざしを向けている。
「ハルト!何の羞恥プレイだこれ!」
「うるさい。黙ってついてこい」
ハルトはシュウの抗議をしげなくあしらい、黙って歩く。
歩幅が小さく遅いシュウにとって、ハルトが手をつないでくれなければとてもついていけない速さだ。
それ以上文句は言わず、ハルトにこんな真似をさせたことについて心の中で謝り倒した。
思考で必死に謝っていたので、シュウはハルトの耳が暑さで染まっているのとは別の意味合いで赤いのに気付かなかった。
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