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教訓仕立てな悪意を捻りつぶす
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何とか駅にたどり着き、やっとハルトがシュウを拘束していた手を外した。
慣れないスピードに疲弊しきっているシュウは今にも倒れこみそうだ。
肩で息をしていたが、ハルトは気にも留めずぶら下がっている時刻表を見上げた。
彼らが乗る予定の便を眺める。
「ちっお前が遅いせいでいつものが行ってしまった」
苦々しく腕を組んだハルトに、シュウは申し訳なく思い小さな体を縮こませる。
萎縮してしまったシュウにため息をつき、ハルトは踵を返してどこかへ向かおうとした。
「どっどこに行くの?」
「どこかで時間をつぶすに決まってるだろ。30分も立って待てるか」
「ごはん食べたばっかじゃん!」
「誰が飯食いに行くって言った。ベンチがあれば事足りるだろ」
いつ電車が来てもいいように、3番乗り場のプラットホームの指定席に移動しようとした。時間が余るといつもそこに座って黙々と時間をつぶすのが習性だ。
「あっじゃあ俺、ジュース買ってくる!ハルトは何が飲みたい?」
迷惑をかけた詫びのつもりか、生意気にも奢り宣言をしてくる。
断ればシュウが困るのが目に見えているので、お言葉に甘えることにした。
「ヨーグルト」
「ヨーグルトは飲むものじゃない!」
「じゃあ何でもいい」
「わかった!先に行ってて!」
「言われるまでもなくそうするつもりだ」
自動販売機にある場所に走って行ったシュウを見送り、ハルトは行動に移した。
先ほどから無遠慮に注がれる敵意に、鋭い眼を向けると数人の男子が駅の入り口で集まっている。
その顔に見覚えがあるようでないのがもどかしい。
極力どうでもいい人間の顔を覚えないハルトは考えることをすぐ放棄し、その集団に無謀にも単独で近づいた。どんどん距離を詰めてくるハルトに、戸惑う様子を見せる男たち。
「さっきからなんだお前らは。視線がうっとおしいんだよ」
「てめぇらこそ俺に恥かかせやがって!調子乗ってんじゃねえぞ!お前らのせいで俺の女が帰っちまったじゃねーか!どう落とし前つけてくれんだよ!」
その言葉で、先ほどファミレスで偉そうに注意してきた男だと察する。
態度も小物だと思っていたが、言語も小物だとは。
ハルトはあからさまに口がふさがらない表情をする。明らかに舐めきっている相貌に、男は顔を怒りで赤くした。
「なんだその顔!喧嘩売ってんのか!」
「お前ごときの有象無象にわざわざそんなことする物好きがいるなら、見てみたいぐらいだ」
「んだと!?」
激高した男はハルトの胸倉を掴み上げようとするが、ひらりと軽くよけてしまう。
「舐めやがって…!おい面かせ!」
「5分でいいなら考えてやる」
ここで事を起こそうとすれば駅員が乗り込んでくるのが目に見えている。
ハルトにすればその申し出は有難いものだった。
久しぶりに憂さを攻撃的にはらせる、とどこか獣じみた悪意に満ち満ちている冷笑を浮かべた。
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