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つかの間の真空
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「あれ?ハルトがいない…」
ジュースを二つ買ってきたシュウは、いつも座っているベンチのそばに来ていたが、そこはもぬけの空だった。
先に行っていると言っていたはずなので、いるものだと信じていたので少し度肝を抜かれた。
「うーんトイレかな?」
しかしあまり気にとめることでもないと結論づけ、シュウはベンチに腰を下ろした。
自分用に購入したオレンジジュースを啜りつつ彼はハルトの帰りを待つ。
一人分空いた空間に目を落とし、物足りなさを感じた。
隣にハルトがいるのが日常だったので、現状が非日常に思える。
すっきりしてしまった横の空間が、妙にさみしい。
たった5分いないだけでこんなに不安になるものなのか?
何かおかしいな。鈍いシュウも、波立つ感情に違和感を覚えていた。
「…なんだろ。これ」
あのふてぶてしい幼馴染の姿が、早く見たい。
シュウがそう願い、ジュースを強く握りしめると、唐突に脳天に拳が振ってきた。
「いてっ!」
「何ボーっとしている」
「あっハルト!」
返ってきた幼馴染に笑顔を向けると、鼻を鳴らされた。
そして隣に腰を下ろすと、空いていた虚しさがすぅっと音を立てて消えていった。
「俺の分」
「はいっ!」
どこか浮かれた調子のシュウに訝しげな眼を向けるが、手渡されたジュースの冷たさにすぐ気を取られた。
「…おい。なんだこれは」
「ハルトの好きなヨーグルト味のやつがあったから買ってきた!偉いだろ!」
ほめろ!と尻尾を振ってくる駄犬に、ハルトは無言でアホ毛を引っ張る。
「いてててて!」
「なんだこの商品名。『ヨーグロト』ってなんだ!見るからに飲む気が失せる」
「グロいほど旨いってことだろ!」
「頭の中までオレンジ畑のようだな」
珍妙な商品をまじまじ睨みつけ、覚悟を決めたハルトはしぶしぶプルタブを捻った。
そして一気にあおり終わると、端正な顔立ちがぐにゃりと歪む。めったに表情を崩さない分、ダメージが大きかったのだろう。
「グロいな。悪い意味で」
「ちゃんと飲めよ!」
シュウの言葉に、舌打ちをしながらもハルトはグロいジュースを飲む。なんやかんやで言うことを聞いてくれるハルトだった。
「うーん…ちょっと俺眠くなってきたかも」
アホ毛を力なくそよがせるシュウ。ハルトは無言で右肩を叩いて「寝てろ」と伝える。
察しとったシュウは遠慮なくハルトの肩に体を預け、ベンチの上に足をあげて熟睡モードに入る。ハルトは飲み終わった缶ジュースをゴミ箱に投げ捨て、鞄から本を取り出して読みふけり始める。
彼らの日常が、戻ってきた瞬間だった。
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