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夕焼け
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海に着いた頃は、もう空は一面、茜色。
今日、何してたっけ?
最早、キス、しか記憶にないわ。
「……………………懐かし……………」
何年振りだろうか…………………ここに、来たのは。
鼻につく潮の香り。
悠斗は、助手席の窓から外を眺め、呟いた。
家族四人。
最後に訪れた、海。
周りは、新しい住宅も増え、景色は幾分変わってる。
「降りてみる?」
隼斗が、笑顔で持ちかける。
「………………………俺、溺れた海だよ?」
怪訝そうに言いつつも、悠斗はまんざらでもないような、苦笑い。
ザザザァァ………………ン
砂浜に打ち付ける、波の音。
意外と風が強くて、隼斗のサラサラヘアは揺れていた。
「気持ちい…………………」
悠斗は腕を真上に伸ばし、目一杯背伸びをする。
それから隼斗を見たら、既に隼斗は自分を見つめてた。
…………………………隼斗?
やけに穏やかで、優しい眼差し。
なんだか、本当にデートみたいに、隼斗の姿が格好良く目に映る。
背が高く、綺麗で、オシャレ。
海が、よく似合う。
「俺が、中学に上がった年だったな…………………最後に、ここへ来たの」
「ああ…………………そうだったっけ。俺は、隼斗に追い付きたくて、随分背伸びしてたわ。たいして泳げもしないのに、隼斗の後ばかり追っかけて」
沖に出たり、磯に行ったり。
チビなりに、大好きな兄貴に置いてかれたくなくて、無理してた。
砂浜を望む高台で、悠斗は苦い思い出と格闘。
「ま、だから溺れるよな…………………流れ的に」
「ぷ…………………だね。あの時は、焦ったな……………磯に近付いてて、周りには人もいなかったし、とりあえず必死に悠斗を岩場に上げたんだよ」
「マジ?俺、その辺記憶曖昧でさ………………隼斗の俺を呼ぶ声しか…………………」
そう。
それだけは、覚えてる。
『悠斗っ!悠斗っ!!』
隼斗が、一生懸命呼んでくれたの。
「悠斗、返事してくれないから……………俺さ、生まれて初めて人工呼吸したんだ」
「…………………え…………」
隼斗は、夕陽に染まる海へ目を向けて、記憶の先を口にした。
人工呼吸?
勿論、悠斗の頭の中からは、消えている。
「夏になる前に、一度だけ授業でしたのを懸命に思い出して、何とか悠斗を助けたくて…………………」
「……………………ウソ……………」
今となっては、凄く申し訳ない。
中一で、弟を助ける為に、人工呼吸。
隼斗って、やっぱり優秀だ。
悠斗は隣に立つ兄に、久し振りに尊敬の念を抱く。
「でも…………………その時、気付いたんだ」
「気付いた………………?」
ザバァァァ…………………ン
強い風にあおられ、波音が激しさを増す。
悠斗は、隼斗の声が上手く聞き取れなくて、側へと歩み寄った。
「…………………隼………………」
まるで、それを待っていたかのように、隼斗の手は、悠斗の手を掴む。
「俺は……………………悠斗が、好きだって。好きだから、悠斗を失いたくなくて……………死に物狂いで、人工呼吸してるって」
中一が、僅か小学3年の弟に、恋をしてた。
「…………………弟なんて目で、悠斗を見てなかった」
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