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手料理
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「…………………へぇ………………いい匂いだな」
キッチンの外まで漂う、慶太の手料理の香り。
必要な資料を集め終えた隼斗は、香りに誘われるようにキッチンへ顔を出した。
「隼斗…………………っ」
「凄い…………………これ、悠斗が作ったの?」
食卓に座る悠斗の後ろから腕を伸ばし、隼斗は慶太の作ったエビチリを一つまみ。
「……………………まさか………………慶太が、持って来てくれたんだよ。お、俺は………………料理苦手だから」
背中に感じる、隼斗の身体。
悠斗は、レンジで温めた料理をつつきながら、ドキドキする胸で箸を持つ手が震えそうになるのを、懸命にこらえた。
「そっか、慶太が持って行ってると言うのは聞いてたけど……………………あいつ、ちゃんと悠斗の世話してくれてたんだな…………………」
慶太が、料理を……………………。
いつも、自分の作ったものを食べさせていた悠斗が、家で自分以外の手料理を口にする。
実際目にすると、こんなに寂しいとは………………。
隼斗は冷蔵庫へ目をやり、袖を捲りながら、扉を開けた。
「……………………料理、少しは覚えて欲しいな……………コンビニ弁当ばかりは、心配になる」
「隼……………………」
「久し振りに、何か作ろうか………………」
振り返る隼斗の笑顔に、悠斗は持っていた箸を落としそうになった。
2年振りの、隼斗の手料理。
ガタンッ………………………
「お………………俺も、一緒に…………いい?」
椅子から立ち上がり、悠斗は顔を赤くして、お願いする。
「悠斗……………………」
また会えないなら、隼斗の味を覚えたい………………そう、思った。
隼斗の味。
外交官だった父親と、それに付き添い海外に行く事が多かった母親。
そんな家庭で育った悠斗にとっては、隼斗が作ってくれた料理が、家庭の味でもあった。
「……………………じゃ、こっちおいで」
隼斗の笑顔に吸い込まれるように、悠斗はキッチンへ立った。
初めて、隼斗の隣に。
少しだけ擦れ合う服に胸が高なり、柄にもなく緊張する身体で。
「明日も食べられるように、カレーにしよっか?」
隼斗は悠斗へニンジンを握らせ、優しく微笑んだ。
「む、難しくない?」
「メモりながら、教えてあげる」
隼斗のカレーは、スパイスから丁寧に作る。
他にはない、悠斗の好物の一つ。
不安そうに見上げる悠斗を、隼斗は近くのメモ用紙を手に取り、まな板の前に誘導した。
「………………悠斗、包丁持つ手も、危なっかしいな」
刃の前に、指。
隼斗は悠斗の手を覗き込み、そこへ自分の手を重ねながら、苦笑い。
え…………………………。
「は、隼…………………」
「ご飯、ホントに全然した事ないの?こんな持ち方じゃ、手を切るよ」
戸惑う悠斗を包み込むように、背後から隼斗の両腕が包丁とニンジンを捉える。
「や……………野菜炒めくらいは、したし…………」
「そ?手を切らなくて、良かった…………………ね、悠斗………………俺が一緒に手を動かしてあげるから、同じように動いて」
耳にかかる隼斗の息と、隼斗の囁く声が、悠斗の身体をより緊張させた。
これじゃ、何も頭に入らない。
悠斗は真っ赤な顔で、自分の手に重なる隼斗の手を見つめた。
「悠斗…………………俺の部屋、マメに掃除してくれたんだね。埃、全然無かった……………ありがとうな」
「………………隼斗………………」
「…………………スゴく、嬉しかった」
自分の手を握り、ゆっくりと包丁を動かす隼斗の言葉に、悠斗は胸が熱くなる。
隼斗が、喜んでくれた。
それだけで、こんなにも心が救われる。
「………………悠斗、美味しいカレー作ろうね」
2年振りの兄弟の時間。
終わりたくない。
終わりたくないよ、隼斗。
悠斗は唇を噛み締め、返事が出来ずに俯いた。
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