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待て
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おやつを目の前に、愛犬へ言う、アレ。
絶対、イジメだ。
俺は今、その『待て』と戦っている。
「きゃー、隼斗くん♪今日、バイトぉ?」
「来て良かったぁ~♪ラッキー」
どっかのOL風の女性客達の、黄色い声。
店内の客達が注目する中、見るからに軽そうなそいつらは、隼斗の肩に何気に触ってキャピキャピ騒いでる。
「オイ、それセクハラだろ」
悠斗は、目の前のガトーショコラをブスブスと刺し、舌打ちをする。
『バイト、6時には終わるから』
突然現れた俺に、隼斗はそう言って、待って欲しいと呟いた。
待って欲しい…………………。
待つに決まってるじゃん!
何時まででも待ってやる!
そんな俺の決意は、隼斗にやたらと群がる客達によって、呆気なく崩れ去りそうになっていた。
「すみません、あの………………このケーキって、味どんなですか?」
んなもん、メニューの下に簡単な説明が付いてるんだから、それ見て悟れ!
「お兄さん、ここのオススメなコーヒーって、何?」
それは、壁に掛かってる黒板に書いてるし!
どいつもこいつも、大した話でもないのに、隼斗へ話しかけてくる。
それをまた、隼斗が笑顔で答えてるのだ。
店の片隅で、カフェオレと大好きなガトーショコラで時間を潰す悠斗には、全くもってストレスの溜まる現状が続いてく。
「ああ、くそ……………………気安く話かけんな!」
ついつい無意識に、フォークを持つ手に力が入る。
「わっ………………………」
気付けば、ただでさえ脆いガトーショコラが、一段と粉々。
ごめん、ガトー!
悠斗は粉々のガトーショコラを、優しくお皿の端に寄せ集める。
「クス…………………お客様、食べ物は大切にして下さいね。…………………………これ、もう一つ食べて。今日の、全部俺の奢りだから」
「………………………隼斗」
新しいケーキを差し出し、隼斗は笑顔で悠斗を見下ろす。
「ごめんね、悠斗…………………もう少しだけ、待っててもらっていい?」
申し訳なさそうな隼斗の笑みに、胸がキュン。
その顔、俺以外に見せないでよ。
「………………………………待ってる」
愛犬の待ては、飼い主への愛情を示してるのかもしれない。
隼斗の笑顔に、待てる……………と思う自分がいる。
「ありがとう……………悠斗」
隼斗は少し身をかがめ、悠斗へ囁いた。
「隼……………………」
かがめたせいで、悠斗の視界に入る、隼斗の首筋。
シャツの釦を2つ開けた隙間から、チラッと見えた鎖骨が、またエロい。
悠斗の目は、瞬く間にそこへ注がれた。
「ぼ、釦……………………開きすぎ………………」
「え……………………?」
「……………………肌、見えてるから」
親父か。
自分でも呆れるが、つい口から出てしまってた。
あからさまな、ヤキモチでしかない。
隼斗から目を逸らし、悠斗は頬を膨らませた。
「あ……………………わかった、ちゃんと閉めるね」
俺の我が儘にも嫌な顔一つせず、隼斗は然り気無く釦を閉めながら歩いて行った。
「何やってんの、彼氏じゃあるまいし……………」
………………………彼氏。
そうだ、隼斗に恋人がいるかどうかも、知らなかったんだ…………………………。
彼氏。
彼女?
隼斗は、バイだ。
どちらがいても、おかしくない。
「………………………俺に」
それを聞く勇気が、あるだろうか?
カウターに入って行く隼斗を目で追いながら、悠斗は唇を噛み締めた。
「でも、好きだ………………………」
好きだよ、隼斗。
弟だけど、隼斗の彼氏になりたいんだ。
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