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休憩
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「おはようございますー」
後ろからのんびりと間延びした声が聞こえた。おはよう、と返事をしながら手元の書類をめくった。
「うぇ、三守さんもう仕事してるんですか?」
「いや、整理。五木こそ、随分遅い出勤だな」
「…すいません」
しゅん、と眉尻をさげて謝る五木。彼は同じ課の後輩である。いわゆる相棒というか。こいつと組むことは多い。ちなみにデスクも隣。隣に座る五木のため息を三守はきいた。整理の終わった書類を引き出しにしまい、五木に向かい合う。
「どうかしたのか」
「…いえ…。あの、相談なんですけど」
「?なんだ。」
離しづらそうに三守に顔を近づける五木に習って、三守も顔を近づけた。周りに声が漏れないように耳元に片手を当てながら五木は話した。
「あの、三守さんて、ヒートのときどこに篭ってます?」
「あのなぁ…こんなとこで聞くことじゃあないだろう…」
実は、五木は三守の後輩の中でも唯一のΩであったりもする。その為、自然と話す機会も多くなる。いわゆる仲間意識というものだろう。とにかく、広々とした空間で話せるような内容ではない。廊下にでて、自販機の前にあるテーブルとイスに腰掛けた。この時間帯なら利用する者はそう多くないはずだ。
「で。なんでそんな話を?」
「俺、賃貸なんですけど、この間大家さんにΩのフェロモンがうざったいってαからの苦情が入ったらしくて。でも俺、今借りてる部屋しかなくてですね…あ、これでもめちゃくちゃ気を使ってたんですよ!?部屋閉め切って、空気の入れ替えとかほぼしないようにしてたし、空気清浄機も一応つけてましたし…」
「あー…あるあるだな。俺は結婚して娘いるから家にまずいられねーんだよ。だから独身時代の部屋そのまま更新して使ってるな。窓がない部屋が一部屋あるから、そこにベッドとか持ち込んで篭ってる」
「そうなんですね…俺フェロモン強いほうだから…あの、もう一ついいですか」
先ほどよりさらに声を小さくして五木は質問した。純粋に、困っているのだろう。
「ヒートのときって、その、自慰するじゃないですか。何か道具使ってますか」
「…お前だから答えるんだぞ。あんまりほかの人に聞くなよ」
「も、もちろんですよ!俺、ディルド使ってるんですけど…アレって、正直なんというか。物足りなくなっちゃうっていうか…」
「俺は医者に癖になるからやめとけっつってディルドは止められてんだよ。だからローターで過ごしてる」
「ええっ!つらくないですか!?俺あれ苦手なんだよなぁ~~」
うう~と感触を思い出しているのだろうか、時折うぇっと言いながら五木は前のめりになっていた体を座りなおした。そんな五木にはは、と三守は笑いながらそればっかりはどうしようもねえなあと相槌を打った。
同じΩだから苦労がわかる。署内には三守から上の世代にΩがいない。だから、自然と相談事が三守に集まってくるのだ。
「何が苦手なんだ?」
三守の背後から急に声がかかった。五木も三守も驚いてガタッと椅子を鳴らしてしまった。急いで振り向くと、笑顔の一ノ瀬が立っていた。腕時計を除けば、始業時間間際だった。そんなに時間がたっていたのか。三守は話しかけてきてくれた一ノ瀬に感謝しつつも、話の内容を聞かれていないかハラハラした。
「なんでもないですよ!」
「えー教えてくれんの?ずるくない?」
「くどいですよー!一ノ瀬さんー」
笑顔で一ノ瀬を流す五木が立ち上がり、三守に小さく会釈をして去っていった。五木はかわすのが上手いとつくづく思う。質問してもはぐらかされるのだ。わかっていても、いつの間にか話題が変わってしまっていることが多い。
「ここであんまりそういう話せんようにな」
三守が立ちあがったと同時に一ノ瀬が口を開いた。そうだ。一ノ瀬は地獄耳だ。頭が少し痛くなった。頭を下げ、すみません、と謝罪した。顔を上げて一ノ瀬の顔色を窺うと眉をひそめた。三守と視線を合わせない。
「いやーそのな。Ωのヒートの話って、俺らαにとっては男性が女性の生理の話聞いちゃった感じに近いんよ。やけん、な!!仕事するぞ!」
そう言い残すと足早に一ノ瀬は去っていった。確かに、αには心地の悪い話ではあるだろう。ましてや、異性のΩの話ならまだしも、同性のΩの話だ。一ノ瀬のリアクションは当然と言えよう。
三守は両方の頬をパシっと手でたたき、二人に遅れて戻った。
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