アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
そういうこと
-
「はい、一ノ瀬」
一ノ瀬が受話器を取った。
どんどん顔が険しくなる。事件だ。
「わかりました。すぐに伺います」
短く返事を返すと、一ノ瀬が立ち上がり、部を出て行った。部下に一言も声をかけないということは、事件ではなかったのか。
三守は少し首をひねると、元の書類に目をやった。隣の五木も首を傾げている。こいつがやるとわざとらしく見える。
一ノ瀬はすぐに戻ってきた。他の課員にも声をかけている。大人数で取り掛かることなのか。
「刑事部所属のΩ、大至急会議室に向かえ。部長がお呼びだ」
Ωと聞いて、三守と五木は立ち上がった。刑事部にいるΩは三守と五木しかいない。それに、そういう言い方をする時は、大体がΩに都合の悪い話の時だ。五木なんてため息吐いている。いや、深呼吸か。
いずれにせよ、三守には呼ばれ続けることに慣れができ始めていた。ただ、呼び方が気に入らないが。
「失礼します」
三守が先に、次いで五木が会議室に入室する。
先に部長—伊藤が立っていた。
「よし。お前たちは、番持ちではないな?」
「はい。」「持ちではありません。」
二人とも答える。
その返答に伊藤は頭を押さえた。何か困ったことでもあったのだろうか。それとも、いつものあれだろうか。
「そうか…。いやなに、特別何かというわけではない。確認がしたかった。もう戻っていいぞ」
そう伊藤が告げると、伊藤は先に部屋からでていった。
またか。こういう確認のときは確保するべき被疑者がαであることが多い。番持ちであれば、捜査に参加できることもあるが、持ちでないなら参加することはかなわない。これは絶対だ。
差別だのなんだの言う輩もいるが、三守たちΩ自身の保護の名目もあるため、直接そういう扱いを受けているΩたちは文句が言いづらい状況にあった。
「三守さん…これで三連続ですよ…俺最近仕事してる気がしないです…」
「捜査だけが仕事じゃあない。そうだろう。さ、戻るぞ。他の奴らの分まで仕事だ」
小さくはい、と五木は返事をした。部署に戻ると、大半のデスクが空っぽだった。
みな、出動したのだろう。
年季の入ったチェアに腰掛けた。ギシッと悲鳴が上がった。デスクの上には書類がたんまりと積み上げられている。あまり得意ではないゆえに、溜まってしまっていた。
とりあえず、分類ごとに書類を分けることから始める。五木もどうやらそのつもりのようで、紙の音がバサバサと増えていった。
「あ、そうだ。三守さん、俺そろそろヒート入るんで、休暇の申請出したいんですけど…」
「あー…。大丈夫だろ。どうせ俺らは外されてるわけだし…声がかかることはほぼないと思うぞ」
「…そうですか。一ノ瀬さんに届出しておきますね」
沈黙。お互いがどうにもならないことを知っているので、何も話しようがない。
望んでこの仕事についたはいいが、現実はこれだ。いや、刑事部にいられるだけで十分なものなのだが。
今日はそのままデスクワークで終わってしまった。
夜勤担当に挨拶をし、刑事部を出る。
五木は三連続と言っていたな。俺は六連続だ。そんなことで張り合っても全く意味はないのはわかるが、こうでもしないとやってられない。自分だけ蚊帳の外なんだ。自信をもってやれる仕事のはずなのに。
駐車場にある車のロックを外す。今日ばかりは寄り道する気が起きない。
当然のように後ろにくっついてきている二都の相手もできるわけがない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
63 / 65