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そういうこと2
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「なんでお前と退勤時間被るんだよ…」
「たまたま」退勤時間がかぶった二都が「たまたま」隣に止めてあった車のロックを解除した。
車をはさんで三守は小さくため息をはく。今日の二都は何も仕掛けてこない。それでいい。
生憎と、相手をしてやれる精神衛生じゃあない。
もう一度ため息をつくと、運転席のドアを開き、乗り込んだ。
と、同時に携帯が震えだした。表示を見ると、二都。一日に一回は絡んでこないと気が済まないのかあいつは。
半ば怒りながら、一応電話にでる。というか、すぐ隣にいるんだから車から降りてこっちに話に来ればいいものを。三守は舌打ちをしてボタンを押した。
「はい」
『お疲れ様』
「切るぞ」
『待て待て。俺はお前と話したいんだよ。正攻法じゃあ相手してくれんだろう?』
「通話料が無駄になるので切る」
『冷たいね。俺はお前と話せて嬉しいのに。』
今はこいつの言葉にいちいち突っかかる気力も起きない。一ノ瀬さんと話したい気分だ。あの人は今、どこにいるんだろうか。今夜飲めたりするだろうか。
電話の向こうで二都が何やら呼びかけるが、頭の中では一ノ瀬さんと五木を飲みに誘う算段をつけていた。
『今日なんかあったのか』
二都のそんな一言で思考が止まる。出世街道まっしぐらなエリートαさんにはわからんだろうよ。
毒づきながら、車を降りた。電話を切らないのは、少しのやさしさ。
車を降りると、慌てたように二都も降りてきた。三守の手を掴み、引き留めるように引っ張った。
それに三守は眉間にしわを寄せた。しつこい。あまりにもしつこい男だ。
掴まれた手を無言で振り払い、一ノ瀬に連絡をつけようと二都との通話を切る。電話帳を探っていると、それを遮るように二都からの着信が入った。
拒否ボタンを押してもう一度一ノ瀬の連絡先を探す。また着信。
二都の妨害行為に頭に血が上る。殴ってやろうか。ここが警察署じゃなきゃ確実に殴ってる。
「二都!!!」
三守は大声で名前を呼び、振り返る。拳を握りしめて。
振り返った先には目を細め、スマホを耳に宛てた二都が立っていた。
「やっと見た」
たった一言。その一言だけで三守は、なぜか体温が急上昇したのがわかった。熱い。その一言に尽きる。
蛇に睨まれた蛙のように動かない三守に、二都はゆっくりと近づいた。
「なあ、どうしてだ。俺があんなことしたから、相手してくれないのか」
近づいてくると同時に、強く成るαのニオイ。二都が如何に優れたαであるかを、Ωの三守が知りたがろうとしている。
うなじに、優しく二都が触れた。たったそれだけの行為に、恐怖感が混じる。人差し指でゆっくり円を描くように撫でる。三守は熱い息を吐いた。
「答えてくれ。俺は、悲しい」
ならば、そのうなじに触れている手を放してくれ。
三守は声にならない声で、小さく叫んだ。それが聞こえたのか、ふ、と二都は鼻で笑いながら手を離した。しかし、一度αを感知したΩは収まることを知らない。
「お前…!わざと発情してるだろ…!!」
「お前のため」
やっと絞り出した声に、二都は片方だけ器用に口角を上げ笑った。何が俺の為だ。三守は犬歯をむき出しにして、ヒートが始まりそうな体を自制させる。
夕食まであと少し。薬の効果が薄れてきているこの時間に、よりによって二都とは。三守は舌打ちをして、何とか足を動かし自車に乗り込んだ。
まずい。呼吸が浅くなっているのがわかる。苦しい。三守は必死に呼吸を行おうと、深呼吸をする。車にこもったのが間違いだったかもしれない。空気がどんどん己の発したフェロモンでいっぱいになるのがわかった。自業自得だ。
ハンドルに腕をかけ、その上に頭を乗せる。ひたすらに、浅い呼吸を繰り返す。熱い。ネクタイを千切るように、ほどいて投げ捨てる。ボタンも手荒に二番目まで開ける。
緊急用に薬をもらってたはずだ。片手で鞄を漁る。
しまった。そうだ。持ってくるのを忘れたんだった。あの部屋に置きっぱなしにしてしまった記憶が三守には確かにあった。
くるしい。あつい。——さわりたい。
外でスマホを触っている二都を三守はにらむ。こんなことして、ただで済むと思うなよ、と。
しかし、自慰しようにもここは職場の駐車場。こんなとこでできるわけがない。
とりあえず車を移動させようと、エンジンキーに手をかけた瞬間だった。
コンコン、と軽快な音が鳴る。
二都がガラスの窓を指でたたいた音だった。
悪い予感がする。
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