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スイートルーム
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菊嘉とアルバーニが去った室内で、秋吉はバスローブ姿のまま立ち尽くし溜め息をついた。着替えようにも、肝心の服は菊嘉が出社する際に全てクリーニングに出してしまった。万が一の、外出防止策だ。
食欲は相変わらず無い。菊嘉の指示だろう、先程運ばれたばかりの、テーブルに並ぶフルーツや野菜を使った料理を眺めただけでそこを離れる。広いソファーへ座ると、背もたれに寄りかかり目を瞑った。体調不良の原因は秋吉自身が一番分かっている。
「宇野風太さん、…実際に一目見てみたかったけれど、この格好じゃ無理だね。せっかく時間が空いたのに、樹雨の伴侶に挨拶も出来ないなんて、」
樹雨の行方は菊嘉にも知られてしまったが、身内を心配するが故の怒りは解けた様子で、身辺調査さえ問題なければ樹雨はこのまま日本で生活する事も出来そうだ。菊嘉は知らない事だが、今回の風太の調査は二度目で、一度目は日本へ来る前、居住地を知る為に秋吉が依頼した。
風太自身に問題点は無い。もし仮にあったとしても、樹雨はもう判断力のある大人だ、どうするかは自分で決める事だと秋吉は思っている。
外出を諦め、薄暗い室内で気怠くうつらうつらと眠りに誘われていると、不意に秋吉のスマホが鳴る。テーブルの上へ置きっ放しだった事に気付き、のろのろと公衆電話からの着信を表示する電話に出た。
「雪ちゃん、具合が悪いの?」
ドアを開けた姿を一目見て、樹雨が首を傾げた。見抜かれた事に苦笑した秋吉に招かれスイートルームへ入り、くんくんと鼻を動かす。
「ご飯の匂いがする!今から食べるの?俺も一緒に食べたい。」
「ああ…、私は要らないから全部食べて貰えると、とても助かります。」
どうぞ、と優しく微笑む。相変わらず天真爛漫な樹雨は椅子に座り、向かい側に腰掛けた秋吉に少し早めの昼食を摂りながら話し掛ける。
「風太がね、今度の土曜日に菊ちゃんと会うんだ。でもその前に、俺だけでも家族に顔を見せに行けって言うからさ。しかも電車の時間とか調べてくれて、途中まで送ってくれたんだ。前に雪ちゃんに、日本の電車やバスの乗り方とか聞いて知ってるって言ったけど念の為って、でも帰りは一人で頑張れってさ。」
「へえ、甘やかさないんだね。」
「うん。風太はさ、菊ちゃんとは違って、何でも自分でやらないと駄目だって言うんだ。今度ね、アルバイトもするの。金が有っても働く苦労は知っておけって、そうすれば、お金を大事に出来るからって。面白いでしょ。」
「ふふ。うん、面白い。うちとは違う考え方だね。あの人は、大切なものは目の届くところに置いて安心しておきたい人だから。」
「そう、菊ちゃんって心配性だし。怒りっぽいけど、本当は寂しがりやだもんね。」
もぐもぐと口を動かしながら、まるでいつもの自宅での食卓を囲む様に話す。
「優しい人だから。少し不器用なだけで、愛情深いんですよ。」
「そうだね。だけど…俺の事で怒られたでしょ?俺が風太に会いたいって頼んだから、」
「いいえ、大丈夫です。」
そう返事する秋吉へ、樹雨は野菜のグリルを刺したフォークを皿へ置き、首を振る。きっと、何かあっても言わないだけだと分かっていた。
「雪ちゃん…もう本当の事を言ったら駄目かな。あと、どれくらい時間が有るの。俺はどうしたらいい?」
「…樹雨は何も知らないふりをして下さい。」
「雪ちゃん、でも、」
「大丈夫です。あとほんの少しだけ我慢して下さい。」
その言葉に眉を寄せて、樹雨の表情が泣きそうに歪む。
「土曜日は、菊ちゃんと一緒に風太のうちに来るよね?雪ちゃん、風太と会ってよ。お願い!俺の伴侶を見て欲しいんだ。風太にも雪ちゃんを紹介したい。」
必死に言い募る樹雨へ、秋吉は困った様子で首を振る。
「風太さんには、とても会いたいけれど…約束は出来ないから。」
「嫌だ!」
ガタンッと椅子を鳴らして立ち上がる。秋吉の座る場所へ急いでテーブルを回り、バスローブの襟を両手で掴んで引き寄せると、顔を仰け反らせた秋吉へ強引に唇を重ねた。
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