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嫉妬5
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「お父さん」
スタジオブースから出て来た光一を待ち構えたように智也が駆け寄って来た。
「智也、お前また一人で…」
光一は走って抱き着いて来る智也をしっかりと抱き留める。
「えへへ、ちょっと迷子になった」
ニコニコと笑う智也にため息をつくと、
「一人じゃダメだって言ってるだろ?どうせお母さんに内緒で来たんだろ?」
光一はそう言って智也の頭をポンと軽く叩いた。
えへへと笑う智也に毎回注意しているのに、こうやってスタジオまで来るのだ。
「お母さんは出掛けてる」
「智也を置いてか?」
光一は驚いた。自分も人の事は言えないが小さい子供を置いて出掛ける行為はどうしたものか?
母親が居るからと外に出たまま戻らない父親よりは普段一緒に居る母親の方がまだマシだよな?
強く怒る事は出来ない。
「ううん、お兄ちゃんが居るから大丈夫よね?って」
「拓也はどうしたんだ?」
「お友達とゲームしてて僕は仲間外れなんだもん、つまらないから来ちゃった」
寂しそうな智也の頭を光一は撫でると、
「でもな、一人じゃダメだ。事務所に電話してアキとかに迎えに来てって頼みなさい」
優しく諭した。
智也ははい。と返事をする。
素直で可愛い智也。
拓也もこれくらいの時は素直で可愛かった…なんて思い出に浸る。
「あ、お父さんマジックとか色紙ない?」
智也は思い出したように口にする。
「マジック?何にするんだ?」
「リナちゃんにサイン貰うの」
智也から出た名前に光一は心臓が止まるかと思った。
なんで?リナの?
そう思ったが、さっきすれ違ったのを思い出した。
「色紙は2枚ね。きっとお兄ちゃんも欲しいから」
智也は指を2本立て微笑む。
「ああ、拓也にか?優しいな智也は」
冷静を装いスタジオ内を物色してマジックや色紙に近いモノを捜す。
「違うよ、リナちゃんのサインは見せびらかすんだもん」
「ん?じゃあ2枚要らないだろ?」
デスクの上でマジックを見つけた光一は引き出しを開けながら聞く。
「あのね、迷子になった時にカッコイイお兄ちゃんと仲良くなったんだあ。お父さんならスカウトするかな?って連れて来たの」
「えっ?知らない人を連れて来たのか?悪い人だったらどうする!」
人懐っこい所は智也の良さだが、まだ幼い彼が犯罪に巻き込まれない保障はない。危険過ぎる。
少しキツイ口調で言う光一に智也はニッコリ笑って、
「豊川さんは知ってたよ嘉樹兄ちゃんの事」
と言った。
「嘉樹?一緒に来たのは嘉樹って言うのか!」
光一は智也の側に瞬時に移動し、しゃがんで智也と目を合わせる。
「うん。嘉樹って名前。もう一人お兄ちゃんが居てね」
「直?」
光一が名前を出すと智也は頷いた。
よし!きたーっ!
光一は心で拳を握った。
「でかした智也!」
光一はそう云うと智也を抱きしめた。
***********
いつの間にかナオが居ない。
yoshiはキョロキョロと辺りを見回す。
それと同時に拓海も居ない事に気付いた。
置いて帰られた?
一瞬、不安が過ぎったが撮影は続行中だから外へは出ないはず。
「どうしたの?」
キョロキョロと見回すyoshiを不思議そうな顔でリナが質問してくる。
「いや、直が居ない…」
「本当、あれ?拓海も、どうしたのかな?」
リナはちょっと捜して来るとyoshi達から離れた。
置いていかないよね?
一人にしないよね?
心が不安に支配される。
なおさんの姿がないだけで、どうしてこんなに不安なのだろう?
涙が出そうになるので俯いた。
でも、余計に涙が出そうになる。
不意に誰かの手がyoshiの手を握った。
顔を上げると豊川がyoshiを優しい顔で見ている。
「大丈夫?」
そう言ってyoshiの手を握る手に少し力を入れた。
「爪、噛んじゃダメだよ。」
そう言われ、手を掴まれた意味を知った。
ナオにも注意される自分の癖。
いつの間にか爪を噛んでしまっていたみたいだ。
「だい…じょうぶ」
握られた手を引いた。
豊川はすぐに離してくれた。
「君を置いては帰らないよ。」
豊川の優しい言葉。
でも、それを否定するように、
「拓海の方が大事だから…」
そう言った。
どう云う意味だろう?
「拓海が大事って、あの二人友人関係なだけだろ?」
深い意味があると豊川も理解しているのに、思い過ごしだと、否定するように聞いた。
「恋人同士だよ」
yoshiの言葉にやはりそうかと豊川は思った。
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