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カタン、と、扉が開く音がした。
「……」
静かに体を起こして拳銃を握り、その銃口を音源へ向ける。
「う、わ、タイムタイム! 急に起こしてわるかったよ!」
しかし、警戒は意味を成さなかったようだ。
扉を開けたのは、同期の松沢 優也-マツザワ ユウヤ-。両手を上に上げて冷や汗をかいている。
「……ごめん。俺…臆病だから。」
まだ寝起きで頭が回って居なかったようで、反応が遅れてしまった。優也に一言謝罪を入れてから、拳銃を置く。
「はは、臆病者も良い方に転んだもんだな」
優也は人当たりの良い笑みを浮かべて、自分のベッドに腰掛けた。真っ黒なシャツに紅いスーツとネクタイを身に纏った彼から、鉄が錆びたような、嗅ぎ馴れた臭いがする。
「……血、まだ付いてるよ」
俺の言葉に、「やべ」と声を漏らすと、ジャケットを脱いで籠に投げ入れた。
「今日高城さんと組んだんだよ」
その一言で理解すると、俺は毛布を手繰り寄せる。
高城和光-タカギ カズミツ-。俺達の所属するマフィア、《angels casus》の幹部である男性だ。
その思考は随分変わっていて、返り血で自分が汚れる事が楽しいらしい。普段はクールなヘビースモーカーで、狂気的な笑顔以外の笑った顔を見たことがない事でも有名な人だ。
「何か……俺ばかり休んでごめんね……?」
睡眠用に服を着替える優也に視線をむけながらいうと、苦笑を返される。
「俺が休んでる間、お前は動いてるだろ?」
「……まぁ……そうだけど…」
しかし人が働いているときに休むのはどうしても気分が悪い。目の前に抱えた枕に顔を埋めながら、俺は優也の晒された上半身をみて顔をしかめた。
「……ねぇ」
「ん?」
「……その傷…何とかならないの…?」
「? どれだよ?」
最早多すぎて分からない、という様子の優也は、腕を上げたりしながら自分の体を見る。しかし本人には見える筈はない。背中の中心に小さく刻まれた傷なのだから。
「……何でも」
「?」
丁度十字に裂かれたそれは、俺にはあまり良い気のするものではない。
「さーかっきくーん。あっそびーましょー、ってね♪」
記憶の海に潜ろうとした所、意識を引っ張りあげられる。
「…あ……辰爾さん………」
「お疲れ様です!」
相手の名前を呟やいた僕に対して、優也は頭を下げる。
金色に黒いメッシュが一本入った短髪。柔らかい表情と楽しそうな口調が特徴なこの人は、名を、辰爾静夜-タツミ セイヤ-と言った。高城さん同様にこのチームの幹部だ。
そう言えば言っていなかっただろうか。『さかきくん』は俺の名前で、正式には榊梨華-サカキ リカ-と言う。この女のような名前を付けた両親は既に他界しているので、何でこんな名前なのか皆目検討もつかない。
「もー、梨華ちゃん。辰爾さんじゃないでしょ? 何て呼ぶの?」
辰爾さんは優也に軽く手を上げて答えてから、僕の今座っているベッドに、ギシ、と音を立てて乗り込んでくる。にこにこと笑いながら顔を近付けて来て、避けたらまた怒られるので、相手の望む事を口にした。
「……静夜さん…」
「良くできました~。偉いよ~りーかちゃん♪」
「……梨華ちゃんって止めてください……」
ぐりぐりと頭を撫でてくるこの人は、よく俺を『梨華ちゃん』と呼ぶ。
しかし、この人へは恩があるため、なかなか大々的に文句を言うことはできない。
「…あの……何か用があったんじゃ…」
「ん? あ、そうそう。お仕事いこっかーっていうお誘いだよ。」
静夜さんは、ぴら、と名刺を取り出して、俺の前に掲げた。その名刺にはキャバクラと呼ばれる店の名前と、そこの従業員であろう女性の名前が書かれていた。
「この女の子が《angels casus》の金に手を付けてね。オシオキ、しに行くよ~」
名刺を受け取ってから、ちらりと静夜さんに視線をむける。
「……キャバ嬢なら…うちの金に手を付けずとも枕でもすれば良いのにとか思いますけど……」
「もーっ、梨華ちゃんったら卑猥なこと言うなぁ」
「……なにを今更…こんなの日常茶飯事と僕にいったのは……あなたじゃないですか…」
「そんな事思い出させるなんて……」
「えっ!?」
「……優也うるさい……何もない……」
はぁ、と息を吐いて、どうして手を付けたのか、改めて問い掛けた。
「ホストだよ~。自分の推してる奴に異常なまでに貢いでるの。アクセサリーとか、色々。枕までして金足りなくなってー、うちの金に手を付けたと。」
「……ああ、なんだ。結局枕なんですか。淫乱クソ女ですね。」
「も~、梨華ちゃん寝起きじゃないと可愛くないことしか言わないんだから。」
「可愛くなくていいので。」
覚醒した意識にぐるりと腕を回すと、スーツへ着替えようとする。しかし後ろに引かれ、肩に腕を回された。
「違うよ梨華ちゃーん。今日はこっち。」
差し出されたそれは自分のものとは少し違って、ワインレッドのシャツと黒いスーツ、それから金のネックレスという組み合わせだった。
「これから少しの期間、潜入しま~す」
「……………………はい?」
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