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ある日のLINE
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ふと、真夜中に。
どうしても気になって眠れずに。
答えところか、既読スルーすら望めないのに、スマホを握ってた。
「なぁ、リリスにあんたはなんの未練もなかったのか?」
驚くことに数分で既読がついた。ま、返答してくれる気はないだろう。最近、健と結婚前の硬質な態度は改められた感はあれど、まだまだ、気楽に昔話を語ってくれる雰囲気には程遠い。
俺は奴にとって、田舎で大切に癒しの日々を送らせ遠くから見守り続けてた恋人を掠め取った極悪人くらいな認識だろうしさ。
しかも先日の、健の誕生日の出来事で、奴には知られたくなかった中学生時代の記憶までしかない健の現在の滞在先と待遇が……バレた。
俺達と関わるつもりないって言ってくれてるけど、正直、不安で仕方ない。
俺がもし、芙柚ならば。
誓いなんて、守れないよ。
凄く好きな想い人が数キロ先に独りで居るんだよ。
確実に自分のこと思い出していて、独りきりで寂しくさ。
逢いたい気持ち、抱き締めたい気持ちに、蓋をするなんて、絶対、無理。
「ない。元々、喜ばせたい人に届かなかったことだ。他のことを叶えておいてやりたかったんでな」
数分後。
スタンプも絵文字も、勿論、顔文字もありゃしない、あっさりとした吹き出しが表示される。
思わず、「マジか!」って独り呟いて、ベットから跳ね起きた。
1行の長めな文章を選んで打った恋敵の反応に、俺は考え込んでしまう。
リリスもまた、健を喜ばせたい一心でしたことで……そうか、あの曲の「・・・」って意味深な・の数は3だよな。
もしかして健の名前か?文字数は3だろ?
恋人同士だった記憶を失った健を想って、あの曲を作ったのならば、ピッタリな気がする。
あの切なくて、でも、凄く優しい響きなんだ。短いけど、訴える歌詞もついてないのに、ずっと、後ろ髪を引かれるみたいな寂しさと、滲むような愛しさがある。
「そっか。お前の曲、良いよな。俺、あのラストコンサートのアンコールでやったらしいヤツ、超好き。
やっぱり気持ちって音に出ちゃうもんなの?」
吹き出し横の時刻表示に、眠れぬ夜の意外な連れ人と、奇妙な近しい友の様に感じる俺は、迂闊に踏み込んだ質問とも気づかず、返す言葉をまったく躊躇しなかった。
すぐに着いた既読のわりに、ずっと眺めてたLINE画面はそのまんま。
相手が相手なだけに、スタンプを貼ってみたりして返事を催促も憚られ。
はたと、もしかして、地雷踏んだのかって焦りを覚えた頃、画面が動く。
きっとお決まりの「お前に関係ない」系な一言。
って諦めてた俺の目に、意外な光景が映り込む。
「誰の気持ちかわからないならば。
お前には乗ってる思いも伝わらないだろう。
無駄な詮索のつもりではないならば、その曲を健に聞かせないでくれ。
もう、俺のせいで健を傷つけたくない」
唖然と見入る画面に、返す言葉を俺は探せず。
俺のとは違う構造の、健の別の迷路から、脱出する気もなく、中心部で眠らせてる想いを抱えたままで、居続ける奴の愚鈍なまでの佇まいに、つい、溜息が口をついて出た。
すげぇ辛いんじゃねぇの?そこはさ。
でも、離れられないんだよな……その闇からさ。
解りたくない、けど、わかるよ、俺。
健と会えるのは、暫く先。
外は梅雨に似つかわしい細かい雨が立てる音に包まれている。
ふと、強まる雨足に、那須の別荘で、誰の邪魔にもならないのに、元から小さく薄い身体を更に縮める如く、隅に小さく丸くなって眠る俺の愛猫の空の下では、穏やかに降っていて欲しいと、願った。
せめて、夢の中くらいは、安らかであって欲しい。
俺は、夏をかけて。
健の迷路を、最大限の努力で脱け出して、健と共にゴールの展望台から俯瞰してやる。
互いに傷だらけになっても、癒し合う。
……出来るかどうかの不安なんか、この夜に、独りで埋めて、向き合うんだ。
「健を傷つけても、全力で癒してやるさ。
俺がつけたんだ、治してみせるさ」
入力して、送信ボタンをスクロールすることはせずに、アプリ自体を切った。
お前に、誓ったりするかよ。
てめぇで勝手に、そこに沈んどけや。
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