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「こっちにはありませんよ、さっき探しましたから――」
「なんだ急に?」
阿川は柏木の前に立ち塞がると、棚の後ろには行かせないようにしていた。俺は心臓をバクバクさせながら出るにも出られず、そこで慌てていた。
柏木に今こられたらマズイ、早く服を直さないと……!
そう思いながら慌てて服を直すと、あいつに外されたベルトを急いで閉めた。柏木は目の前に立ち塞がる阿川を不審がった。
「本当に探したのか?自分では探したと思っていても、案外見落としてるかも知れないだろ?」
「そんなはずないですよ、よく探しましたから――」
「そうなのか?」
「ええ、俺が探してる資料はここにはありません。それより何の用ですか?」
阿川は柏木にそう言って尋ねた。
「ああ、さっき戸田課長が呼んでたぞ?」
「戸田課長が?わかりました。わざわざ探しに来てくれてありがとうございます」
「いや、いいって。お前がこっちの部屋に入ってくの見たからさ。戸田課長、待たすとマズイだろ?」
「ええ、そうですね。ありがとうございます」
「じゃあ、またな!」
柏木はそう言って伝えると、その場を離れてドアの前に歩き出した。そして突然後ろを振り返った。
「あー、そう言えば葛城みなかったか?コピーしにここに入って行ったのを見たような……」
柏木が俺の名前を呼ぶと、ギクリと心臓がバクバクした。そして息を潜めていないフリをした。
「葛城さんですか?さあ、知りません。俺が入って来た時には誰もいませんでしたよ?」
「そうか。じゃあ、俺の気のせいか?」
「そうですよ、気のせいです。柏木さん、疲れてるんじゃありませんか?」
「ハハッ、そうかもな。あ、じゃあさ。もしアイツをみかけたら伝えておいてくれるか?」
「……アイツ?」
阿川は一瞬、表情が変わると目を細めた。
「いいですよ――。なんて伝えておきますか?」
「今度、萩原と3人で飲みに行こうって伝えておいてくれ!」
「……わかりました。伝えておきますね?」
「ああ、よろしく頼む!」
柏木はそう言って言い残すと部屋から出て行った。俺は緊張感から解放されると、思わず深いため息をついた。そして後ろの棚からなに食わぬ表情で出てきた。
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