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奥の個室から出ると、大きな鏡がある洗面台で顔を洗った。そして顔を洗うと、両手で軽く頬を叩いて気合いをいれた。
しっかりしないと…――。
仕事に集中……
「あ、葛城!?」
「ん……?」
誰かに背後から名前を呼ばれると、咄嗟に返事をして振り向いた。すると目の前には柏木がいた。
「あ、柏木……!」
「よう、葛城。元気か?」
「なっ……なんだよいきなり?」
あいつがそう言って声をかけてくると、俺は然り気無く視線を反らして洗面台の前で両手を洗って下をうつ向いた。
さすがに今会うのは気が引ける。それにさっき阿川とあんなことしてたんだ。いくら飲み仲間で、高校からの……。
「いや、お前さ。最近なんか元気ないなって思ってさ。ちょっと声をかけてみたんだよ?」
「プッ、なんだよそれ。お前の気のせいだろ?」
アイツにそう言われると、俺は軽く笑い飛ばした。そして逆に心配し過ぎだと言い返した。
「なんだ気のせいか。俺はてっきり、お前が仕事で失敗してあの狸オヤジにまた怒られたんじゃないかと思ってさ。ほらあの狸オヤジ、口だけはうるさいだろ?俺も実はあの人苦手だったり――」
「お前それ言いすぎだろ?」
柏木は然り気無くそんなことを言ってくると、俺の隣に並んで前髪を手で軽く整えた。アイツは俺より身長が高い。ついでに顔も大人びて大人の男の色気が出ている。まるで俺とは大違いだ。ついでに昔から女子にモテる方だ。
「あ、じゃあ。他に悩みがあるのか?」
「悩み?」
「その顔、悩みがある人間の顔色だ。俺がためしに当ててやろうか?」
「悩み……か、俺が悩みなんてあるはずないだろ?」
そう言って言い返すとあいつがジッと、こっちを見てきた。その視線に思わず目が泳いだ。
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