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「いい気味です。おあいこですよ」
「ッ――! このぉ…! やったな!? どうしてくれるんだ! スーツが濡れただろ!!」
「あはは、それはお互い様です!」
ずぶ濡れになると阿川は目の前で悪戯に笑ってきた。ムッと怒るとアイツに水をかけた。
「この酔っぱらいが! 調子に乗るな!」
「やりましたね、お返しです!」
「バカ! 眼鏡はやめろ!」
「え~? 今、何か言いましたか~? 全然聞こえませんでした!」
「コイツ…――!」
深夜の噴水広場で俺達は水を掛け合った。年甲斐も無くまるで子供みたいな馴れ合いでふざけた。こんな気持ちは何年ぶりだろうか、大人になるとつい忘れてしまう事が増えていく。そんな忘れてしまった懐かしい感情をコイツと一緒に居る事で不意に思い出した。
「葛城さん…――」
「あが……」
アイツに名前を呼ばれるとハッと我に返った。そして気づいたらキスされた。不意打ちだった。俺とした事が――。
「…ッ、またか。ホントにお前はキスばかりだな」
「隙だらけの葛城さんがいけないんですよ。言ったじゃないですか、隙あればドンドン責めるって。覚悟して下さいって言った事もう忘れたんですか?」
「ッ…――。ああ、そんな事言ってたな。聞き飽きたなその台詞。耳にタコができる」
顔を反らすとアイツに水をかけて立ち上がった。そして、ずぶ濡れになった服でクシャミをすると肌寒さを感じた。
「葛城さん、俺は真剣に貴方を…――」
「早く帰るぞ。寒くてしょうがない。ほら、行くぞ阿川。」
俺はアイツに背中を向けると落ちた鞄を拾って噴水広場から離れた。アイツも慌てて噴水から出ると後をついてきた。
「葛城さんおいて行かないで下さいよ~!」
「さっさと歩け、こっちは濡れて寒いんだよ!」
「も~また直ぐ怒る~!」
「誰のせいだ、誰の! 酔っぱらいはこれだから困る!」
「待って下さいよ~!」
ずぶ濡れになった服で二人で夜道を歩くとアイツの家に向かった。そして、俺は初めてアイツの家に訪れた。マンションの構えから高そうな雰囲気が建物から漂っていた。俺と同じ給料の癖に生意気だった。舌打ちをすると「さっさと案内しろ!」と軽く足蹴りをした。阿川は「ハイハイ、今開けますよ!」と酔っぱらった口調で返事をすると鍵を開けて玄関のドアを開けた。
「どうぞ!」
阿川がドアの前で声をかけてくると、俺はアイツの家の中へと一本踏み入れた――。
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