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「かっ、葛城さん…――!?」
「――なんだよ。もう起きたのか?」
「あっ、あの……!」
「その様子じゃ、起きたようだな。まったく、俺より遅く起きるなんて生意気な奴だ」
「葛城さん…――!」
「朝食作ってやった俺に感謝しろよ」
電話越しで彼は、皮肉混じりに話してきた。俺は彼の声を聞くと胸が高鳴った。
「酷いですよ葛城さん。俺が寝てる間にさっさと帰っちゃうなんて……! せめて起きるまで居てくれてもいいじゃないですか…――!?」
「バーカ。俺はお前よりも忙しいんだよ。それに1回起こしたぞ。なのにお前は隣でノンキにずっと寝てたぞ。だから起こさないで、そのまま寝かせておいてやったんだ」
彼は電話越しで話すとタバコに火をつけていた。
「葛城さん……!」
「あ?」
「その、昨日は色々とありがとうございます…――!」
「まったくそのとおりだ。世話の焼ける酔っ払いに振り回されてた俺の身にもなれ。第一、酒の飲み過ぎなんだよ。人様に迷惑かけるまで酔い潰れてるんじゃねーよ。ったく、お前のせいで俺がどれだけ神経を使ってか」
「え?」
「ゴホン……! なっ、何でもない。気にするな」
「葛城さん、聞いてもいいですか? 俺の携帯に電話番号を残してたみたいですけどコレは……?」
「ああ、お前が…――。お前が寝てる時に俺の携帯番号を教えろってうるさかったから残して置いてやった。あとで登録しておけよ」
「あっ…!」
「なんだよ? 迷惑だったか?」
「いえ、そんな事は…――!」
話を聞かされると一瞬、しまったと心の中で呟いた。夢の中で俺としたことが…――! 彼にウザイ奴だと思われたらショックだな。
「いえ、迷惑だなんて…――! むしろ、その。俺なんかに電話番号を教えてもいいんですか? だって俺は貴方の事を――」
「気にするな、それに俺もお前の番号を知らなかったしな。ちょうど良かった」
「え……?」
「暇な時にイタ電くらいしてやるよ。どうだ迷惑だろ?」
「も~! 葛城さんは素直じゃないな。俺の声が聞きたくて電話をかけるって素直に言えばいいのに――」
「バーカ、自惚れぬな! お前なんかイタ電で十分なんだよ。それに会社に行けば嫌なほどお前の顔を見るわけだし。寂しくなんかなるかよ」
「俺は寂しいですよ、いつだって貴方の声を聞きたいです。きっと俺だけじゃないはずですよ、貴方だってきっと…――!」
「……ったく、子供だな」
「葛城さんまたそうやってはぐらかす……! 俺は貴方を――!」
「おい、バルコニーに出ろ」
「え?」
彼からそう言われると電話を片手に窓を開けると外のバルコニーに出た。不意に下を見ると1階の出入り口の所に彼が立って居た。携帯を片手に俺の方を下から見上げていた。
「葛城さん…――!?」
慌てて彼の名前を呼ぶと直ぐに、一階に降りようとした。すると彼はタバコを咥えながら「じゃあな」と言って優しく笑ったように見えた。
「待って……!」
そこで電話が切れると葛城さんは、そのまま自分の家に帰って行った。彼の優しく笑った顔が俺の心をぎゅっと締め付けると、愛しい気持ちだけが心の中に溢れた。
「ほんとにズルい人だなぁ。今すぐ抱き締めたい…――!」
彼の残したサプライズは反則だった。バルコニーの前で座り込むと胸の鼓動が高鳴った。こんなにも俺の気持ちを乱すなんて。朝日の中、彼の姿が目に焼けついた。さっきの事を思い出すと幸せな気持ちになった。今まで彼との距離があったが、ほんの少し距離が縮まったような気がした。それだけでも一歩前進だった。
今まで恋愛でこんな感情は無かった。それを彼に恋する事で俺は「本気の恋」を知った――。
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