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「…すまん、本当に大丈夫だ。ありがとう柏木」
そう言ってアイツの手を左肩から振り払った。さすがに今のはマズかったなと阿川の気持ちを察した。そして、今のは怒っただろうなと一瞬脳裏にアイツの顔が浮かんだ。阿川はすっかり元気無さそうな顔で黙り込んでいた。そこに酔っ払った戸田課長がビールの瓶を持って酒を飲まそうとした。
「ど~したんだい慶介君! そんな暗い顔して、グラスが空じゃないか!? ささっ、もっと飲んで楽しもうじゃないか!」
戸田課長は顔を赤くしたまま酔っ払った口調で阿川に絡んできた。さっきアイツに無理やり飲まされそうになったら断れと言った。だけど阿川は断るどころかグラスを手に持った。さすがに俺は見てられなくなると席から立ち上がった。
「ささっ、阿川君! 私の奢りだから、遠慮無くどんどん飲みたまえ! 若いんだから酒はいくらでも飲めるだろ!?」
「ええ、そうですね…――」
戸田課長は阿川が手に持っていたグラスに、ビールを注いだ。アイツは何食わぬ顔でビールを飲もうとした。その瞬間、間に入るとアイツからグラスを取り上げて、代わりに自分からグイッと一気に飲んだ。
「なっ、何するんだね葛城君…――!?」
「葛城さん……!?」
グラスの中身を一気に飲み干すと、間に入って戸田課長に一言言い放った。
「そのお酌、俺がお受けします!」
間に入って戸田課長に詰め寄るとグラスを手に目の前に出した。
「阿川だけ課長からお酌を受けるのは狡いですよ、俺も一緒に混ざってもいいですよね!?」
「葛城さん俺の事は…――!」
「お前は黙ってろ!」
「戸田課長、俺はこう見えてお酒は強い方です。なんなら、そこのビール全部のみましょうか?」
そう言って再び詰め寄ると戸田課長も剥きになってグラスにビールを注いできた。
「よーし! じゃあ、見せて貰おうか…――!?」
お互いに一歩も譲れなくなると阿川の目の前で俺と戸田課長は張り合った。普段なら冷静沈着なこの俺が、こんなバカみたいな真似は絶対にしなかった。なのに俺は今コイツの為に馬鹿になろうとしていた。グラスに注がれたら酒を次から次に飲み干すと戸田課長は顔を真っ青にしていた。
阿川は「やめて下さい!」と止めに入ったが掴まれた腕を振り払って飲み続けた。柏木も間に入ってきたけど聞く耳も持たなかった。そして、全員引いた目で俺の事を見ていた。テーブルの上にあったビール瓶を全部空にすると、さすがの戸田課長もビビってこれ以上は何も言わなかった。
阿川にちょっかいを止めると、戸田課長はその場から引き下がって他の相手と飲み続けた。俺はそこで意識が薄れていくと途端に倒れた。突然、倒れると阿川が後ろから抱きとめた。
朦朧とした意識の中で必死に阿川が俺の名前を呼んでいた。悲しそうな顔で、今にも無きそうな顔で見ていた。不意に手を伸ばすと、アイツの涙を手で拭った。
「心配するな、俺は大丈夫だ。そんな顔をするなよ――」
「葛城さん…――。何で俺の為にこんな無茶なこと……!」
「……なんでかな。自分でもこんな事するつもりはなかったんだけどな。きっとバカになったんだ。それも全部、お前のせいだぞ…――?」
そう言って目を閉じると意識を失った。
「ッ…! カッコ良すぎですよ、葛城さん…――!」
腕の中で意識を失うとアイツは震えた声で、俺をぎゅっと抱き締めてきた。そのぬくもりにアイツの愛を今まで以上に強く感じた――。
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