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「・・・じゃあ、お話続けるね」
あこ先生がそう言ったから、一安心したボクは慌ててノートの上に転がった鉛筆を持つ。
連絡ノートの今日のページはまだ真っ白け。
お耳をうさぎさんのお耳にして、ちゃんとあこ先生のお話をメモしなきゃ。
「海くんがさっき答えてくれた・・・ぽつん・・・あせものお話は正解とはちょっと違うんだけど、実はとっても近かったの」
え??っとお顔を上げたボクを励ますようにあこ先生が優しく笑ってくれる。
「・・・みんな早く帰りたくってウズウズしてるみたいだから、急いでお話しするね。
あこ先生がみんなに気をつけて欲しかったこと、は・・・『熱中症』です」
じゃじゃ~んと種明かしするみたいにあこ先生は大きな声でそう言った。
えっとぉ…うんとぉ……
だけど張り切って連絡ノートに『気をつけなきゃいけないこと…①』と書いたまでは良かったんだけど、ボクの手はそのままぴたりと止まってしまう。
ね…ね…ちゅー・・・?
あこ先生今なんて言ったんだろう?
聞き慣れない言葉は1度聞いただけでは覚えきれなくって、ボクの頭の中にはたくさんのはてなマークが溢れている。
「まだそんなに暑くないからって油断しないで、みんなこまめに水分補給するようにして欲しいの。
ポカポカ陽気で外遊びの機会も増えたでしょ?
だからおうちの人にお願いして来週からは水筒と帽子を持ってきて下さい」
月曜日持って来るもの。
① すいとう。
② おぼうし。
水筒は去年廣瀬さんに買って貰った水色に青の水玉模様の、とびきりかっこいいやつがある。
冷え冷えの麦茶に氷もたくさん入れて貰って、
それが公園や野原で走るたびカランコロン音を立てて、とっても嬉しかったんだ。
お帽子だってちゃんと持ってるもん。
お日様が苦手なボクでも大丈夫なように、大きなツバがぐるりと伸びた麦わらのお帽子。
ケンちゃんのお母さんが貸してくれたお帽子によく似ているけれど、廣瀬さんはとってもお似合いだよって言ってくれた。
園で何かが必要になるたび、廣瀬さんは嫌なお顔1つせずににこにこ笑顔で言ってくれるんだ。
『…じゃ、急いで買いに行かねーとな』って。
汗拭きタオルだって、お着替えのお洋服を入れる大きな大きな巾着袋だって、お昼ごはんの時にテーブルに敷くマットだって・・・どれもこれもぴかぴかの新品を持たせてくれるんだよ。
新しい物を初めて使う時は、いつも誇らしい気持ちと…
本当はボクにはもったいないんじゃないかって不安でいっぱいなの。
ぴっかぴかの新品を、ボクなんかが使ってもいいのかな?って。
だけど廣瀬さんはボクの周りにぴかぴかが増えるたび、とっても楽しそうなんだ。
そのお顔を見てたら、ボクの心配はどこかに消えていなくなっちゃうの。
・・・だから水筒もお帽子も、新しく準備する物は何もない。
問題はただ1つ。
あこ先生のお話に合わせ大急ぎでノートにメモしたボクは、お隣のみのりくんの腕をつんつんと突っついた。
「…みのりくん…『ねっ・・・ねっ、ちゅー・・なんとか?』って…知ってる?」
こそこそとお耳に囁かれ、みのりくんは鬱陶しそうにがりがりとお耳を掻きむしる。
「そんなのぼく聞いたことないよ・・・今忙しいんだ」
ほんの一瞬お顔を上げ、だけどまたすぐにみのりくんはテーブルの上に置いたクワガタさんのポストカードに見入ってしまう。
これは先週お父さんから貰った大切なみのりくんの宝物なんだって。
それはボクの手のひらくらいの紙切れで、本当は短いお手紙を書く便せんみたいなものなんだけど…誰かにあげるなんて勿体ないから、みのりくんはお手紙は書かずに自分で持ってるんだって。
みのりくんたら、授業中も休み時間の時も…お昼ごはんを食べてる時だって突然思い出してはこのポストカードを眺め始めるんだ。
・・・困ったことに、こうなるとみのりくんはボクのお話なんて聞こえなくなっちゃうの。
みのりくんに聞くのは諦めて、ボクは少し離れたしょーたくんに声をかける。
「…しょーたくん…しょーたくん…」
お勉強は苦手なしょーたくんだけど、時々ものすごく難しい言葉を知ってて大きい先生を驚かすんだ。
しょーたくんの読むマンガ本の中には、難しい言葉がたくさん出てくるから自然と覚えちゃうんだって。
「…しょーたくん……ねっ・・・ちゅー…なんとかって…なに…?」
ひそひそ声で一生懸命話しかけるけれど、しょーたくんはボクが呼んでいることにすら気付かない。
身を乗り出して覗き込むと、テーブルの下にこっそりマンガ本を広げ先生に隠れて読んでいるのが見えた。
お隣のみのりくんはポストカードに、ちょっと離れたしょーたくんはマンガ本に夢中。
・・・他のお友達はみんな退屈そうに壁に掛かった時計を眺めたり、大きなあくびをしている子もいる。
仕方なくお友達に聞くのは諦め、ふぅ~っとため息を付きゆっくりおずおずと手を挙げた。
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