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廣瀬side
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「・・・ダメだよ海ー。ハートのクッキー俺にくれるつもりだったんだろ?」
「…でも…もうハート…違います…」
「い~の。
おまえが作ったのはハートだったんだろ?
いっぱい気持ち込めたから上手に出来たんだろ?
さっき自分で言ってたじゃん。俺メチャクチャ腹減ってんだ・・・廣瀬さん、それ食っていい?」
「…これ…食べれる…の…?」
ウサギのように赤い瞳が半信半疑に聞き返す。
そんな海にニッと笑い返し、今度は半ば強引にボロボロに崩れた元クッキーが包まれたサランラップを取り上げた。
「いっただっきま〜す」
まるで粉薬でも喉に流し込むように茶色い粉を頬張る俺。
8割が粉と化したクッキーは甘くてちょっと粉っぽかったけど…その味も触感も、不器用な海らしい気がして妙に愛おしかった。
「んー、美味い。ごちそうさん」
心配そうに俺を見上げる海の頭をクシャクシャに撫で、仔猫に笑顔が戻った頃…突如もう1回その髪に鼻先を埋めたい衝動に駆られた俺をあざ笑うかの如く、・・・・下の方からムードもヘったくれもない音がした。
『キュルルル~』
あっと声をあげ真っ赤になって両手で腹を押さえる海と、吹き出す俺。
「だよなー、おまえだって腹減ったよなー。
急いで帰ってメシにするか・・・って言いたいとこだけど、このまま黙って帰るわけにいかねーし、一言挨拶してかねーとな・・・」
・・・そうは言っても、食堂には俺たち以外誰も居ない。
海の話だと奥の部屋には園長と葛西が居るには居るが、さすがにこっちの勝手な都合で話の最中に声をかけるのも気が引ける。
「…大きい先生…すぐ戻って来る…言いました…」
「そっか?じゃ、もう少し待ってみるか・・・」
「……はい…ボク…いい子…待てます…」
名誉挽回とばかりにピシッと手を挙げた海のほっぺたをムニ~ッと摘み俺と海は並んででっかいテーブルに向かって座る。
「う~み、今日もいい子にしてたか?」
隣り合って座ったらそこか定例行事と化したいつもの会話がスタートする。
柊からの帰り道、
駐車場に停めた車に向かう途中や家へと急ぐ車内の中で俺たちはもう何度もこの会話を繰り返してきた。
別々に過ごした時間の隙間を埋めるように、いつだって俺たちはその日1日の出来事をまるで息継ぎすら惜しむように猛スピードで報告しあう。
海はみのりくんとのしりとりで勝ったことや、国語の本読みで褒められたこと、
俺はご無沙汰だった常連客が久しぶりに来てくれたことや仲の良いお客さんに差し入れを貰ったこと・・・
どれもこれも他人が聞けば取るに足りない物ばかりだけど、俺たちにとっては全てが大切なことばかり。
結局のところ、俺たちにとってお互いのことで『どうでも良いこと』なんてただの1つもないんだ。
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