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廣瀬side
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手のひらサイズの小さなメモ帳を見た瞬間海の瞳がキラキラと輝く。
いったい何が書いてあるんだろう…そんな期待がこもった熱い眼差し。
「オイ、んな期待すんなよ。全然たいしたもんじゃねーぞ?」
俺の前置きなんてよそに相変わらずのキラキラな瞳で興味津々メモ帳を覗き込まれ、
勿体ぶっても余計期待を持たせるだけだからとペラペラの表紙を勢いよく開いた。
「…うわぁ~…字…たくさん…です…」
海が目を丸くするのも無理はない。
中には罫線なんてオールシカトで書かれた俺の汚ねぇー文字がビッシリ並んでいる。
元々字には自信がない俺だけど、どれも説明の傍ら急いでメモった物だから、いつも以上に汚ねぇー字。
どうせ人に見せる目的じゃないから俺さえ読めればいいと、適当に書き殴った事を今頃になって後悔し始めた。
「…これ…全部…廣瀬さん…お勉強したこと…?」
「そっ。これが今日勉強してきたこと。どーだ、ちゃんと廣瀬さんだって勉強してるだろ?」
「…はい…廣瀬さんいっぱいいっぱいお勉強…してます…」
見よ、この尊敬の眼差しを。
キラッキラの瞳で見つめられればもちろん悪い気はしない。
ニンマリしていた俺の頭に突然ふわりと柔らかな感触が舞い降りた。
「…偉い偉い…廣瀬さん…いい子いい子…」
柔らかな手のひらの感触と、柔らかな声。
やたらと真剣な表情の海が俺の頭を撫で擦る。
いつも俺が海にそうするような乱暴なものじゃなく、ひどく優しく…ひどく丁寧なソレ。
ガキにガキ扱いされ、胸の中がくすっぐたいような気分で落ち着かない・・・そのくせ何故かそれが嫌な気はしないからホント不思議。
「海は?おまえも遊んでばっかじゃなくてちゃんと勉強したんだろーな?」
手の動きが不意に止まった。
んー・・・っとしばらく考え込んでから、遠慮がちに海が頷いた。
「…ボクもお勉強…たくさんたくさん…しました…ノート…廣瀬さんには負けちゃう…でも…たくさん…たくさん…書きました…」
「そっかそっかじゃ、家に帰ったらしっかりノートチェックしねーとなぁ~」
「…ちぇっく…?」
「だぞぉ。ちゃんと先生の言ったことメモしてあるか、ノートにいたずら書きなんてしてねーか、チェックしねーと」
「…先生言ったこと…メモ…先生言ったこと…メモ……」
突如意味不明にブツブツと呟いた海の顔を覗き込むと同時にハッとしたようにその目が見開かれた。
普通にしててもデッケーのに、零れ落ちんばかりに目をかっ開き海はあわわあわわ口籠っている。
「・・・うみぃー・・・どーしたぁ?」
「…ボク…あこ先生…大事なお話…メモ…しました…とっても…とっても大事なお話…メモ…」
「お、おぅ、そーか。なんだ言ってみ」
興奮気味に・・・鼻息も荒く・・・俺を真っ直ぐに見つめる瞳。
果たしてあこ先生の話がそこまで重要かどうかは疑問だが…何でも全力投球の海のこと、ここはこっちも真剣に聞いてやんねーと。
「…去年…廣瀬さん…買ってくれた麦わらのお帽子と…かっこいいお兄さんの水筒…月曜日、持って行かなきゃいけません…絶対絶対忘れちゃメッ…大事大事……」
ほ~らね。
そんな事だと思った。
やっぱ、呼吸を荒げてまで言う話しでもない・・・・
が、それはそれ。
うちのかーいー仔猫に限りそれすら通常運転だ。
「よ~し、じゃ、帰ったら早速準備しねーとな」
な~んて、帰ったら速攻メシが先だ。
それから風呂に入って、急いでこいつを寝かせねーと。
最近は忙しい日が続き、夕飯が遅れ気味の我が家。
体力のないうちのチビ猫は、眠気に勝てずメシを食いながらこっくりこっくり居眠りをする光景がよく見られる。
そうなってしまうと元から食が細いこいつは、食事も喉を通らなくなる。
・・・・・・だからその前に。
医者である陣から言わせれば、
体が食事よりも睡眠を欲している証拠だから何も気に掛けることはない・・・だそうだが、
俺としては毎日これじゃ気が気ではない。
取り敢えず帽子と水筒は月曜日までに準備すれば問題ないだろう。
敢えて今それを口に出して言わないのは、オレ流海の扱い方。
こいつの性格上、何かに気を取られるとそれしか見えなくなってしまうから・・・。
「…他にもあこ先生のお話…ボクいっぱいいっぱいメモ…しました…ちゃんと赤い線…引きました…絶対絶対忘れちゃメッ…大事なお話……」
「他にも?大事な話ってまだあんの??」
眉を上げ聞き返した俺に、海は神妙な顔で頷き返す。
帽子と水筒の次は何だ?
弁当でも持って来いってか??
それともレジャーシート???
500円分のおやつとか????
・・・・って、それじゃ遠足か。
頭の中でアホな空想を繰り広げている俺とは真逆に、当の海はさくらんぼみたいに真っ赤な唇をキュッと結び、ただ一点を見つめている。
「…忘れちゃメッ…大事なお話…ボクメモしました…ちゃんと赤鉛筆の線…引きました…」
・・・うん・・・つーかソレ、さっきも聞いたし。
で、肝心の大事な話ってなんだよ。
「…赤鉛筆の線…大事な大事なお話……えっとぉ…うんとぉ……ねっ…ねっ……」
モジモジモジモジ・・・・
口ごもる海を待つこと3分・・・いいや、5分?
とにかく長いこと待たされ、進展しない会話に俺が飽きてきた頃、海は唐突に・・・ホント唐突に頬を赤らめた。
・・・上気する頬で、
・・・潤んだ瞳で、
真っ赤に艶やかに色づく薄い唇から洩れた、
想像を絶する言葉に・・・俺は自分の耳を疑う。
「…ねっ……ねっ、ちゅう…しよー…?」
なっなっなっなっなっ、
なんだとぉぉぉぉぉぉ???????
この突拍子もなく、いきなり繰り出された誘い文句。
『ちゅう、しよう?』
ジーザス!!!!!
赤みを帯びた顔で艶っぽくこっちを見つめる海・・・
を、凝視する俺。
俺は耳だけでなく、自分の目さえも疑ったのだった。
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