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クマ太くんはとっても大きくって勇敢そうな見た目なのに、本当はちっとも勇敢じゃなくて弱虫で意気地なしなの。
だから森に住んでる動物たちにいつもバカにされてばかりなんだ。
自分よりもっとずーっと小さなウサギさんや、リスさんからも弱虫…意気地なしって笑われてばかり。
それでもクマ太くんはけして怒ったりはしない。
ただ黙ってみんなを見ているだけ。
でもね、クマ太くんは弱虫で意気地なしかもしれないけれど、誰よりもとってもとっても優しいんだ。
ボクはそんなクマ太くんが大好きだから、動物たちにバカにされるたび哀しい気持ちになっちゃうの。
クマ太くんにも良いところがいっぱいあるんだよ!!!って、みんなにも教えてあげたくなっちゃうんだ。
森でいつも1人ぼっちのクマ太くん。
・・・そんなある日クマ太くんの住む森に1匹のオオカミさんが迷い込む。
赤ずきんちゃんのお話も、オオカミと七匹の子ヤギのお話も、童話の中のオオカミさんって何故かみんな意地悪でものすごく食い意地が張ってるんだよ。
・・・だからかなぁ。
『いくじなしのクマ太』の中の動物さんたちも、みんな怖がってオオカミさんには近づかないの。
『食べたりなんてしないよ・・・僕はただ道を聞きたいだけなんだ』
そう言っては1人哀しむオオカミさん。
けれど、クマ太くんだけは違っていた。
きみも僕と一緒で嫌われ者なんだね。
よかったら友達になろう?
そう優しく声を掛け、その日からクマ太くんとオオカミさんはお友達になるんだ。
いつも一緒にいる2人を見て、森の動物たちはやっと気が付いた。
クマ太は弱虫でもなければ意気地なしでもなかったんだ。
だって、あんな獰猛なオオカミを怖がらないんだからね、って。
それからはクマ太くんを『いくじなしのクマ太』なんて呼ぶ子は誰も居なくなりました・・・おしまい。
ボクは椅子から勢いよく立ち上がり、呆気にとられている廣瀬さんを素通りして大きい先生と廣瀬さんの間に立ちはだかった。
大きな背中を丸め、みんなにバカにされてるクマ太くん。
クマ太くんは1人ぼっちなんかじゃないよ、ボクがそう教えてあげなきゃ。
大きい先生は座ったままでお顔だけ横に向け、ぼけーっとボクを見上げる。
「…クマ太くん………仲間外れ、しないよ…元気…出して……」
「・・・・くま・・・た?」
頭の上に立派なはてなマークを浮かべボクを見上げる大きい先生。
・・・いけないクマ太くんじゃなかった、大きい先生だった。
「…えっとぉ…クマ太くん…違う。
…大きい先生…元気…出して…ボクと廣瀬さんのお話…教えてあげます…仲間外れ…しません…」
ね?と問いかけてから、ボクは猛スピードで廣瀬さんのお勉強のメモ帳が文字で埋まっていたことや、
ボクがあこ先生のお話を一生懸命連絡ノートにメモしたことを説明し始めた。
「…それから…月曜日…水筒と…麦わらのお帽子…忘れないように、のお話も…しました…それから…それから・・・・・・」
あれれ???
足ふらふら、頭ぼーっ、になっちゃう怖い病気・・・なんて言ったっけ?
興奮して一気にお話していたボクだったけれど、どうしても1番大事なことが思い出せなくて言葉が続かない。
「…えっとぉ…うんとぉ…」
「・・・うん・・・海くんまずは落ち着いてみようか?ゆっくり考えたらきっと思い出せるよ」
励ますつもりだったはずのクマ太くんに、逆に励まされているボク。
「…ね……ね……『ね』の付く病気……なんだったけ……」
考えて考えて考えて、でも焦れば焦るほどさっき口にしたお名前が出てこない。
クマ太くんを元気づけるためかっこよく決めるはずだったボクは、仕方なく助けを求めるみたいに廣瀬さんを振り返った。
廣瀬さんはそんなボクを笑いながらも、
声には出さずお口を大きく何度も開けたり閉じたりして、クマ太くんには内緒で答えを教えようとしてくれる。
「…えっとぉ…『き』…?…」
違う違うとお首を振る廣瀬さん。
「…『り』…?」
また廣瀬さんはお首を振った。
「…ね…の次…なんだったっけ?…『み』…?」
一生懸命廣瀬さんのお口の動きを見るボクと、
いつのまにか笑顔も消え真剣なお顔でお口を動かす廣瀬さん。
「違う、違うって。海いいか、よーく見ろっ」
そう言ってもう1度廣瀬さんは大きくお口を開けた。
最初の一文字は『ね』だよね。
それは覚えてるんだ。
・・・・だけど、その次の言葉がなんだったのかが分からない。
せめて2文字めが分かれば思い出せる気がするんだけど・・・
「…『ん』…?」
「違げぇーよ。全然口の形違うだろ。いっか、最初っからいくからちゃんと見てろよ」
一言一言区切って、廣瀬さんのお口が大きく動く。
もう1回…もう1回と何遍も繰り返す廣瀬さんのお口に集中し、何分経っただろう。
途中で大きい先生が何か言おうとするたび人差し指をお口に当て、廣瀬さんはシーッと注意する。
「うみぃ~ちゃんと見ろよ~」
「…ごめんなさい…です…」
「・・・っていうか、ムキになってガキはどっちですか・・・そういうとこも嫌いじゃないけど」
落ち込んでいたはずのクマ太くんだけはどんどん笑顔になり、代わりにボクと廣瀬さんの眉毛がへの字に曲がっていく。
「いいか、もっかいな」
「…はい…」
お口が最初の文字の『ね』の形になる。
「『ね』・・・」
「…ね…は覚えてます」
ボクに頷き返し、廣瀬さんが続けた。
「『ち・ゅ・う・し・よ・う』・・・ってやっべっ、声に出して言っちゃったじゃん」
そーだ、
『ねっちゅうしよう』だ!!!!!
大急ぎでお口をふさぐ廣瀬さん・・・だけどボクはやっと足ふらふら頭ぼーっの病気を思い出せてすっきりいい気分、
だったはずなんだけど・・・・・・・
突然後ろで椅子が倒れたことにびっくりして、びくっと大きい先生を振り返った。
「あ、ありがとうございます!!
葛西淳也、喜んでいかせて頂きまっす!!!」
大きな声でそう告げた次の瞬間、
大きい先生は餌を見つけた本物のクマさんのようにもの凄い勢いでボクを飛び越え廣瀬さんに襲いかかっていた。
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