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「海・・・ホントごめん。
後輩に髪切ってくれって頼まれててさ・・・仕事終わってから切ってやる約束しちゃったんだ・・・だからけっきょく明後日もいつもと同じくらいの時間になるかも」
突然強い風が吹いたみたいに息が苦しくなる。
日曜日なのに・・・いつもと一緒?
声が喉に詰まってすぐには言葉が出てこない。
はぁーふぅーはぁーふぅー・・・何度か息を吸ったり吐いたり繰り返し、少しずつ少しずつ落ち着いてきたボクを心配するように廣瀬さんが覗く。
「ごめんな、海」
『ごめんなさい』はとっても大切な言葉。
だけどね、ボクはあんまり好きじゃないんだ。
だって『ごめん』って言うたび、廣瀬さんはとっても哀しそうなお顔をするんだもん。
廣瀬さんのそんなお顔は見たくない。
・・・でも、こんな哀しそうなお顔をさせてしまっているのはボクのせいなんだよね。
ごめんなさいしなきゃいけないのはボクの方なのかな?
ボクがもっと聞き分けのいいお利口さんだったら・・・
1人ぼっちなんてへっちゃらの立派なお兄さんだったら・・・
廣瀬さんにこんなお顔をさせることもなかったのかも。
つーんとするお鼻が痛くって、廣瀬さんのお胸にお顔を押しつけボクは小さな声で言った。
「…廣瀬さん…ごめんなさい…」
ふ、っと溜め息なのか分からない短い息を吐いてから、廣瀬さんの手がボクの髪の毛をそっと撫でてくれた。
「・・・なんでおまえが謝るんだよ」
「…だって…ボク…悪い子、だから……もっともっと…いい子…なりたいのに…いい子…なれません…」
「ばーか、おまえはもう十分いい子だよ。
・・・けどな、海・・・別に俺はいい子が好きなわけじゃない。いい子でも悪い子でも、おまえだから好きになったんだ」
「…いい子…悪い子…ボク…だから…?」
頭の中にもやもやがかかって、廣瀬さんの言ってる言葉の意味がよく分からない。
だけど『好き』って言って貰えたことだけははっきりと分かるんだ。
「・・・俺もさ、上手く言えねーけど・・・いい子になろうなんて思わないで、おまえはそのままでいなさいって事。廣瀬さんはそのままのおまえが1番好きなんだから」
「…そのままのボク…いたら…廣瀬さんにこにこ笑顔…なる?…哀しいお顔…しない?」
「あぁ・・・そうだな。
おまえがおまえらしくいてくれたら、俺はいっつも笑ってられるかもしんねーな」
廣瀬さんのお日様みたいな匂いに、
廣瀬さんのお日様みたいにぽかぽかの手。
そのあったかい手が何度も何度もボクの髪を撫でてくれる。
それだけでボクはとっても上手に息が出来るんだ。
「やっぱ、後輩のカットはパスして明後日は早く帰って来ようかな」
手の動きは変わり、今度は安心しろとでも言うようにぽんぽんとボクの頭を優しく叩く。
「…ぱ…す?…やめちゃう…?」
「うん。カットは俺じゃなくたって誰か他の奴に頼めばいいしな」
きゅっと唇を噛みしめボクはよーくよーく考える。
その瞬間頭の中に1番最初に浮かんだのは廣瀬さんのちょっと真剣な、だけどとっても楽しそうなお顔。
ボクの髪の毛を切ってくれる時・・・しょーたくんの髪の毛を切った時もそう。
陣先生の髪の毛を切った時もだよ。
廣瀬さんはいつだって真剣で楽しそうなお顔をしていたんだ。
たぶんそのお顔はボクがお絵描きしている時と似ているのかもしれない。
大好きなことをしている時は、みんなそんなお顔になるんだ。
「…やめちゃ…メ…」
「ん?」
「…髪の毛…切るの…やめちゃメ…です」
「・・・なんで・・・いいのかよ?」
ボクは力を込めてこっくりと頷く。
寂しくないわけじゃないよ。
ほんと言うと、もしかしたら廣瀬さんに早く会いたくってちょぴっと泣いちゃうかも…って心配もある。
でもね、それ以上にボクは廣瀬さんのあのお顔が大好きなんだ。
ちょっと真剣で、でも楽しそうで、オメメがきらりんって輝いているお顔。
とってもかっこ良くって、みんなに自慢したくなるくらい大好きなんだ。
「…はさみ…持ってる時の廣瀬さん…とってもとってもかっこいい…です…ボク…大好き…だからボク…うみと一緒、お留守番…します…」
「うみ・・・そっか。ありがとなー」
ありがとうそう言った廣瀬さんのお顔は見えなかった。
だってね、ボクの前髪をさらっとめくって、おでこのミミズさんにちゅーしたから。
でもきっと…うふふ。
にっこり笑顔だよね?
「そのかわり、月曜日はおまえが食いたいモンなんでも作ってやるからな。そんで2人で食って、一緒に風呂入って・・・こうやって抱き合って寝よう」
・・・ってそれじゃいつもと変わんねーか。
少しして、おでこの上からくすっと笑う声がした。
「…でも…ボク…楽しみです…」
「ん・・・俺も」
廣瀬さんもボクもどうしてか分からないけれど、特別なことなんてしなくたって2人で一緒にいられるだけでいつだってにっこり笑顔になっちゃうんだ。
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