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~END~
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情事の後すぐ脱力しきったようにベッドに転がる海を見てまず1番最初に俺が感じるのは、満足感でもなければ優越感でもなく・・・・
深い深い罪悪感と、自己嫌悪。
「ごめんなー、うみぃ・・・廣瀬さん、つい夢中になり過ぎちゃって・・・」
さっきまでの熱が嘘のように、言い訳じみた寒々しいセリフが部屋に虚しく響く。
いくら男経験(?)のない俺でも、ケツにあんなモンを突っ込まれた挙げ句容赦なくガンガン突かれれば痛いことくらい容易に想像がつく。
ましてや俺と海の体格差だ。
そりゃーもぉ、殆ど拷問と言っても過言じゃねーだろう。
いや、もちろん俺だって拷問を与えようなんて気はさらさらないよ?
─────むしろその逆。
有り余る愛情故の暴走・・・なんだけど。
どっちにしろ一方的に海の体に負担をかけてしまったのは事実だ。
海はうつ伏せに倒れた顔を気怠げにほんの少し傾けこっちを見、
口元だけにうっすら微笑みを浮かべる。
クシャクシャに皺の寄ったシーツがまた更にその痛々しさに拍車をかけていた。
この場を陣が見たら人殺しでも見るような、あの軽蔑しきった冷酷な目で睨まれるんだろうなぁ。
うん、分かってる。
医者としてそれも無理はないよな。
・・・・医者としてっていうより、人として?
はい、悪いのは俺です。
欲求不満をこじらせ衝動を抑えきれず海の体を思いやれなかった意志の弱い…だけど性欲だけは人一倍強い、この俺。
喫煙者なら分かると思うけど、セックスの後の一服ってのは妙に美味く感じるもの。
今までの俺だったら服も着ず速攻〆の一服を堪能するところだけど、相手が海となれば話は変わってくる。
〆の一服なんて気は当然起こるはずもなく、ベッドの上に素っ裸のまま正座をし、いたたまらない思いで乳白色のシミが点在する皺くちゃのシーツに突っ伏す真っ白な裸体を見下ろすしかなかった。
・・・普段ならこんな格好を惜しげもなく俺の目の前に晒すなんて、恥ずかしがり屋の海にとって絶対あり得ないこと。
今は照れも忘れるほど疲れ切ってヘトヘトって事だろう。
あぁぁぁぁぁぁぁー
海、ごめん。
ほんっと、ごめん。
「いっぱい汗かいちゃったな・・・シャワー浴びれそう?」
まるで紐の切れた操り人形のようにクッタリと横たわり目を閉じかけていた海は、俺の問いかけに瞼1枚動かすのがやっとって態度でどうにかこうにか薄目を開ける。
「…おふろ…ボク…すき……あした……はいります…」
いつも以上に片言の日本語でそう告げ、あとは吸い込まれるように目を閉じてしまった。
だ~よ~ね~、
今のこいつにそんな気力残ってるはずないよねー、
・・・・・・・・聞いた俺がバカでした。
「とにかく体だけは拭いてやろうな。
それと喉も渇いただろ?なんか持ってきてやるよ」
う~ん・・・今の俺、浮気がバレて奥さんのご機嫌伺いするアホ亭主みたい。
じゃなければ、引きこもりでニートのイタい息子に気を使いつつ、コソコソと息子の部屋に食事を運ぶ母親?
・・・・・要はみっともないってこと。
いくら待っても返事のない抜け殻に無意味にも頷き返し、
ハードプレイの末無惨にも足下に丸まってしまったタオルケットを引っ張ってきて小さな裸体にかけてやる。
「ほんとごめんな、海」
俺、陣に咎められる間でもなく本気で反省してるんだ。
これでまた、海はしばらくはあの軟膏の世話になるだろう。
明日はほぼ1日ベッドの上で過ごさなければならないだろうし、
2、3日は筋肉痛に悩まされる事だって間違いない。
俺だけがピンピンしてて、海はぐったり。
なんならすっきり爽快…元気百倍の俺と、片や精も根も尽き果て抜け殻のような海。
俺が言うなって話だけど、
どうして世の中ってこうも不公平なんだろう。
はぁー・・・・。
深いため息を吐き出し、ぐちゃぐちゃに絡まった海の髪を撫でてからそっとベッドを抜け出す。
ぬいぐるみの上の脱ぎ捨てたTシャツと床に落ちてたズボンを手早く履き終えたところで、背後から弱々しい声がした。
「……ろせ…さ」
掠れた声で呼びかけられベッドのすぐ脇で振り返ると、眠ったとばかり思っていた海が不安そうに俺を見上げていた。
「タオルと飲み物持って来るだけで、すぐに戻るよ」
「・・・・くなかった?」
「─────えっ?」
上手く聞き取れず凝視する俺を海は縋るような瞳で見つめている。
「……廣瀬さん…気持ちぃく…なかった…」
今にも泣き出しそうな表情で俺を見上げる海。
その顔を見た瞬間胸の奥がツキンと痛んだ。
クタクタになりながらもこいつはそんな事を気にしていたんだ。
明日からしばらく続く体の痛みでもなければ、不自由な生活でもない、
俺を満足させられたか、それだけを。
・・・・心配するのは俺の方なのに。
「んなわけねーじゃん。
すっげー気持ちよかったよ」
終わった後のこういう会話ってほんとナンセンスなんて苦笑しつつも、不安げな海についそう答えていた。
こいつといるといつだって俺の調子は狂いっぱなしだ。
そもそもストレートに体当たりする事しか知らない海を相手に、スマートな恋愛なんて出来るはずもない。
これまでのような駆け引きや上っ面だけの関係とはまるで違い、今まで俺が培ってきた物なんかこいつが相手じゃ何の役にも立たなかった。
必勝法はただ1つ。
俺は俺らしく、海は海らしく。
だけどそれは言い換えれば、
自分を飾ることも偽ることもなくどんなに格好悪くても、全然スマートじゃなくっても、
ただ本能のままに体当たりできる相手・・・それが許される相手ってこと。
そんな奴、俺にはきっとこの世でたった1人しかいない。
「・・・ホントに気持ちよかったよ」
噛みしめながら言った言葉に何故だか無性に泣きたくなった。
俺にはこいつしか考えられないし、たぶんこいつだって同じ。
他人から見たらどうでもいいことでも、俺にとってそれは奇跡みたいなモンなんだ。
そんな相手に巡り会えた、他人にはちっぽけだけど俺にはとてつもなくでっけー奇跡。
「……ボクも…です……また……えっちなこと…して…くれる…?」
下世話な言葉の意味とは裏腹に、やけに透き通った瞳は一点の曇りもなく俺を見据えている。
「ん、またいっぱいえっちなことしよーなー」
うふふ…声には出さず海は口元だけで微笑んだ。
だけどその表情は心底幸せそうで、場違いなほどジンとする。
そっか。
不公平なんて考えはハナからこいつの頭の中にはないんだ。
ただ純粋に俺を想い、ただ純粋に俺を求めてくれる。
そこには理由も理屈も、くだらない言い訳だって存在しない。
・・・だからこいつはどこもかしこも全てがあんなに綺麗に見えるんだ。
「…廣瀬さん…」
もう1度その髪を撫でようと手を伸ばした俺に、数秒の沈黙の後海はやっぱり掠れた声で言った。
「……ねっ…ちゅうしよう……」
とっておきの魔法の呪文を口にするみたいに丁寧に、慎重に。
やっぱ、こいつは綺麗だなぁ。
見た目だけじゃない。
どこもかしこも、隅から隅まで全て。
俺だってもう『熱中症?』なんて聞き返したりしねーよ。
これは今日覚えたばっかの、おまえのとっておきの誘い文句なんだろ?
控えめだけど不器用だけど、必死にキスをねだる海に頷きそっと屈み込む。
「そうだな。今度こそおやすみのチューしないとな?」
ポッと頬を赤らめた海の熱い顔を手のひらで優しく包み、ゆっくり静かに唇を重ねる。
さっきまでの激しいものとは全く違う、ただ触れるだけの柔らかなキス。
最大限の『ごめんな』と『ありがとう』を詰め込んだ俺からのキス。
辛い思いさせてごめんな。
俺を求めてくれてありがとう。
「・・・おやすみ、海」
「…おやすみなさい…です…」
幼いキスに満足したのかスーッと引き込まれるように海は眠りについてしまう。
そんな穏やかな寝息と安らいだ寝顔に、タオルや飲み物を取りに行くことも忘れ俺はしばらくの間見惚れて動けずにいた。
・・・・おやすみ、海。
これからも2人でいっぱいエッチしよーな。
それだけじゃない。
いっぱい笑って時々は泣いて、
おまえの大好きなちチューだって抱っこだっていっぱいいっぱいしよーな。
気持ちよさそうに眠る海を見て安心したせいか、はたまた久しぶりに味わう疲労感のせいか俺にも徐々に睡魔が訪れ始める。
めんどくせ~、
タオルも飲み物も明日でいっか。
海を起こさないようもぞもぞとベッドに戻った俺は、
赤ん坊のように安らいだ顔で眠る、赤ん坊にしてはデッカいガキをそーっと抱きしめる。
無条件で母親に摺り寄る仔猫のみたいに眠ったまま俺の胸に顔をぐりぐりと押しつけてくる海につられるように俺も静かに目を閉じた。
あー、今夜もぐっすり眠れそっ。
ん・・・・・・ちょっと待てよ。
いっぱいいっぱいチューしよう??
いいや、
たまにはジラすのも悪くないかも。
だっておまえ、そん時はまた真っ赤になってモジモジしながら俺に言ってくれるんだろ?
『……ねっちゅうしよう……』
って。
これから俺は何度聞くことが出来るんだろう。
俺だけに囁かれる、何よりも甘くとびきり愛しいその言葉を。
~end~
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