アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3
-
「…なんですか」
こうなっては仕方がない。
なんだかんだとみんな緒方さんの話しを聞く気がないのだ。
身体がよろけるような力でまだ熱の冷めない腕を急に肩に回され、思わずたじろぐ。
「夏休みに合宿あるだろ?」
「そうですね」
「ちょっとペナルティーの酷いイベントもある」
「はい?」
「いやなんでもない。で、今年はタータントラック使うだろ?」
「あ、そうなんですか」
今年は、という事は去年は違ったのだろうか。
今年が初めての合宿なのだ。
合宿があるということ以外、詳細はまだ知らされていない。
「そうなの。で、タータンピンが欲しいのよ」
タータントラックとは、全天候型のウレタンが敷き詰められたトラックの事で、ピンとはスパイクに取り付ける針のようなもの。
浅く溜め息をつく。
「…分かりました」
「え、なに?緒方は一人でピンも買いに行けないの?」
からかうような口ぶりの田沼さん。
「あーそれは分かるぜ緒方!長さとかな!色とかな!」
「井上、ピンの長さは競技によって適したものがあるし、色はスパイクによるぞ」
呆れ顔の渡辺さんがじっとりとした視線を向けた。
「え…マジで?だから俺いつもシルバーピン勧められるの?ゴールドのがかっこいいのに?」
目を真ん丸に見開いて、井上さんがガクリと大げさに崩れ落ちた。
「お前よくそれで陸上やってたな」
いつもおおらかな渡辺さんも、さすがにため息をついた。
「あーもうね、細かい事説明すんの面倒だから、俺がいつも買い物付き合って選んでやってた」
脱いだシャツを鞄にしまいながら山梨さんが言い放つ。
「なんで?!山っちなんでゴールドピンのスパイク勧めてくれなかったの?!」
「このスパイクの色に一目惚れした!って人の
言う事聞かなかったの誰だよ」
はぁ…と部室に溜め息が広がる。
「おい、そろそろ部室締めるぞー」
三年生で部長の戸倉(とくら)さんが声を上げた。
「すみませんっ!」
みんなが慌てて帰り支度を急ぐ中、緒方さんはご機嫌なのか、一人鼻歌を歌っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 1191