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自分が目的を果たしてから数十秒後、左手に焼きそばパンを握った山田が疲れた顔をして人混みから出てきた。
「お疲れ」
「おぅ…やってやったぜ…」
競争率の高い焼きそばパン狙いだった山田は、いくらか制服が乱れて息が上がっている。
また二人で教室へ戻ろうと歩き出す。
「ねぇ、さっきのなに?」
「ん?蒸しパン王子?」
「うん。あだ名なんてあるの知らなかった」
あー、と乱れたネクタイを直しながら山田が笑った。
「まぁそういうのって本人は知らないもんだろ。でもさ」
「あきづーーーき!!」
廊下の端から聞き慣れた声が響いた。
バタバタと近付いてくる足音。
振り返らなくとも声の主とその表情が浮かぶ。
「お、出た!空飛ぶ元気玉!」
カラカラと山田が笑った。
(話しの途中なのにタイミング悪い…そして声が大きい…)
浅くため息をついて振り返る。
想像通りの人物が、想像通りの嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。
「おっ、山田くん!ちーっす!」
「ちわっす!緒方さん今日も元気ですね!」
「おう!まぁな!ちょっと秋月借りていい?すぐ返すから」
緒方さんの手には部活のメニューが組まれたプリントが握られていた。
「はい!じゃあ秋月、先戻ってるからな」
「あ、うん」
ぺこりと頭を下げ、そのまま山田は歩き出した。
(二人きりじゃないから大丈夫だよな…?)
一抹の不安を抱きながら、とりあえず普通に接する。
「緒方さん…そんな大声出さなくても聞こえますから…」
「え?そう?あ、このプリントな」
(人の話しを全く聞いてないな…)
色々な意味で何事もなかったかのように、黙々と話しを続ける緒方さん。
山田の言っていた空飛ぶ元気玉とは、もちろん目の前の人物の事で、何かと目立つ緒方さんの結構有名なあだ名だ。
自分も同じようにあだ名がつけられていたとは思いもしなかったし、緒方さんもきっとそんなあだ名がついてるなんて知らないのだろう。
「って事で二年生に伝えてこれ渡してほしいんだ。よろしく!」
終わりの見えた会話にほっとする。
「わかりました」
差し出されたプリントを受け取ろうと右手を伸ばす。
が、右手に触れたのはプリントではなく緒方さんの左手だった。
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