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それからは特に何事もなく毎日が過ぎて行った。
緒方さんもあれ以降何かを言ってくることもなかったし、三年生達がからかってくる事もなかった。
本当に告白されたのか、あれは夢だったのではと思う程に何もなかった。
廊下から見える木々が新緑に輝き、日に日に昼間の時間が伸びていく。
GWに一泊の合宿が組まれた。
学校にある合宿施設に泊まり込み、夏に向けての筋力アップと体力作りがメインとなる。
筋トレに走り込み、はっきり言って酷練だ。
五月といえど直射日光の降り注ぐグラウンドは暑く、どこか湿気を含んだ風が身体にまとわりつく。
L字沿いに立ち並ぶ桜の木にでもとまっているのか、甲高いツバメの鳴き声がする。
「あちー!五月あちーよー!」
水道へ向かいながら、井上さんはシャツをバタバタとさせた。
タオルで汗を拭いながら瀬川さんが笑った。
「今からそんなで夏大丈夫なの?」
「それな。今一番の悩み」
「幸せ者だな」
山梨さんは呆れ顔だ。
緒方さんは水道横の階段で仰向けになっている。
「緒方、体調悪いのか?」
渡辺さんが心配そうに近づいた。
「んー、体育館の床って冷たくて気持ちいいじゃん?だから階段もそうかと思って」
「で?冷たかったか?」
「いや…驚いた事にめっちゃ熱い…」
三年生が一斉に話し出す。
「当たり前だろ!屋外だぞ!」
「驚いた事に驚くわ」
「安定の斜め上発想だよね」
「なんだよ!緒方天才かと思ったのによ!」
そんなやり取りを横目に、蛇口をひねる。
直射日光に晒された水道からは、ほのかに生ぬるい水が流れ出てきた。
「あ、緒方と秋月、午後から跳んでいいぞ」
渡辺さんの言葉に緒方さんがガバッと起き上がった。
「マジで?!あっ、肘擦りむいた!」
「おいおい大丈夫か?記録取れって監督が。あと一年生のフォーム見てやってくれ」
「よっしゃぁあ!やる気出てきたぁ!」
ガッツポーズをして水道に走ってくる。
「聞いた?秋月聞いた?跳んでいいってよ!」
「はい、俺はもう少し助走位置の修正が必要ですけど。あと肘、血が出てますよ」
「名誉の負傷だ!助走見てやるよ。楽しみだなー」
ニコニコと何処までも嬉しそうに笑う。
「……緒方さん元気ですね」
「俺だからな!」
「はぁ…そうですね」
一羽のツバメが滑るようにグラウンドを横切った。
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