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記録の伸びなかった中学時代。
いくら好きでも、結果が出ないものは楽しく感じられなくなっていった。
伸びない記録は焦りを生み、いくら跳んでも空はちっとも近く感じられない。
もどかしい時間ばかりが流れ、中学一年の体育の授業で感じた快感も、だんだんと忘れていった。
高跳びは辞めようと思った。
空が見れないのなら高跳びを続ける意味はない。
でも夏のあの日、彼に出会った。
跳ぶ姿ももちろんだが、何よりも印象的だったのは、声援に応えた笑顔だった。
何をどうすればあんな顔が出来るのだろうか。
まだ自分の知らない魅力が、高跳びにはあるのかもしれない。
まだ自分の知らない空が、そこにはあるのかもしれない。
それならばもう一度。
いや、何度でも。
あの笑顔の意味するものが、まだそこにあるのなら。
日に焼けた帰り道にそう思ったのだ。
そんな気持ちを柴田に伝えられたらと思って口にした言葉だったが、少しは伝わっただろうか。
今はまだ伝わらないかもしれない。
でも彼の姿を見ていれば、いつか話しの意味に気づいてくれる気がする。
大概自分もアツい人間なのかもしれない、なんて思う。
休憩後も再びフォームの指導にあたっていると、ロードワークから部員達が戻ってきた。
ぞろぞろと集団が水道へ向かって歩く。
誰もが汗だくで息を切らすその姿から、ロードワークのキツさが伝わってくる。
緒方さんは身振り手振りを交えて一年生にフォームを教え込んでいる。
感覚が大切な高跳び。
その感覚を口で説明するのは容易ではない。
「緒方ーちゃんと日本語で教えろよー」
首にタオルを掛けた山梨さんがケタケタと笑った。
「大丈夫だっつの!俺は日本語しか話せないんだからな!」
「高校生が威張ってそれ言う?緒方のクラスは英語の授業がないのかな?」
「うるさい瀬川!ハロートム!ハーワーユー?」
「トムって誰だよ。始めての英語かよ。秋月ーちゃんと通訳してやれよー」
「はい。言われなくても」
「ほら!秋月もこう言ってんじゃん!」
「…なに言ってんだ緒方。どこをどうしたらそのセリフが出てくるんだ?脳内のシナプス繋がってないのか?」
「やめよ山梨。緒方と話してると疲れが増す」
「だな」
「声掛けて来たのお前らだろ?!シナプスってなんだよ?!」
「休憩10分なー身体冷やすなよー」
「山梨聞いて!瀬川教えて!」
山梨さんと瀬川さんはその叫びに背中を向け、完璧にスルーした。
「秋月…シナプスってなに…?」
パスが回ってきた。
「シナプスとは筋繊維や神経細胞間にあるシグナルを伝達する神経活動に関わる構造とその」
「ちょっ!秋月待って!たんま!柴田!通訳して!最初から!」
「無理です!全く!最初から!」
その後も時折飛び出すとんでも発言はあったもののそれはいつもの事で、緒方さんの的確な指導の元、一年生の進歩が目に見え、うかうかしてはいられないと気が引き締まった。
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