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「あっ、山梨のかーちゃん!こんちはっす!」
入り口から大きな声がして、意図せず身体が強ばった。
「緒方くん!遅かったわね」
「うん!監督と話しがあったんで」
「そうなの、お疲れ様!」
「緒方くん、こんばんは。肘怪我してるの?大丈夫?」
「瀬川の母ちゃん!久しぶりじゃないですか!これは名誉の負傷ってやつなんで大丈夫です!あ、そして井上の母ちゃんまで!」
「あそこにもマダムキラーが…」
「マダムキラー再び…」
「もうやめて…」
マダムの息子三人が下を向いた。
「有難い…合宿所にまで来て飯の用意してくれてな、本当に有難い…だが、だがしかし恥ずかしいだろ…」
「穴があったら入りたい…誰か穴掘って。5cmでいいから…」
「穴って言うかそれただの溝…何も隠れないけど、もうそれでもいい気がしてくるよね…てか井上にも羞恥心とかあるんだね…」
三人はブツブツと下を向いたまま話している。
「お、秋月発見!」
おぼんに乗せた食器をガチャガチャさせながら、緒方さんが近づいてくる。
「悪い秋月、嫌なタイミングで嫌な話ししちまったな」
小声で山梨さんが謝ってきた。
「いえ、大丈夫です」
「なに?どうした?」
緒方さんはドカッと井上さんの隣に座ると、パチンと手を合わせた。
「いや、マダムキラーの話し」
「マダムキラー?なにそれ?いただきまーす!」
「聞いといて食い始めるなよ!」
「あ、そう言えば瀬川さ」
「そしてスルー!」
「すげぇ!今日の山っちいつもよりツッコミ冴えてんね!」
「…お前と母ちゃんのおかげだわ」
例えば俺に彼女が出来たとして、緒方さんは泣くのだろうか。
ドラマのように大粒の涙を流し、縋るのだろうか。
きっとこの人は俺の前では笑うのだろう。
何事もなかったかのように笑って、それで…
「秋月!食わねーなら一つくれ!」
おもむろに緒方さんの箸が伸びて来て、反射的に皿を持ち上げる。
「食べます」
「え?俺にもくれよ!」
井上さんも箸を伸ばしてきた。
「だから食べますって」
「井上横取りすんなよ!」
「ちょっ…やめてください!」
「そんな事やってると落とすよ」
「落ちる!俺の唐揚げ落ちる!」
「俺のです!」
「あぁ、落ちるな。時間の問題だ」
「山梨さん!見てないで助けてください!」
「まぁそのタイミングになったらな」
「そんなのんきな」
言いかけた瞬間、前方からの攻撃をかわしきれず皿が滑った。
(終わった…)
と思った瞬間、横から手が伸びてきて皿を支えた。
「…ありがとうございます」
「やっぱり時間の問題だったな」
頬杖をついた山梨さんは、皿から手を離すとにっと笑った。
いつもの賑やかな雰囲気に戻り、騒がしくも夕飯の時間が終わった。
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