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「で、なんで返事聞かないんだよ」
仕切り直すような、山梨さんの声。
「困らせたくないから…」
「本音は?」
「……怖いから」
「まぁそんな事だろうとは思ってたけどな。だからお前何事もなかったようにしてんだろ?」
「うん」
「最初からそう言え。相談乗ってる意味ねぇだろ」
「ごめん」
山梨さんと緒方さんの淡々としたやり取りが途切れ、沈黙が流れる。
何年生の部屋だろうか。
遠くから笑い声が響いてきた。
「フラれるのなんて分かってるよ…」
沈黙を破ったのは、やっと聞き取れるくらい小さな緒方さん声だった。
「男同士なのも分かってるし、秋月がどれだけ高跳びに本気なのかも、恋愛とか興味ないんだろうなってのも分かってる。余計な事であいつが高跳びに集中できなくなるのも嫌だ。だから困らせたくないってのも、嘘ではない」
誰もなにも言わない。
「伝えないでいられたなら、きっとそれが一番良かったんだと思う。このままでもいいって、ずっとそう思うようにしてたけど、でも好きなんだよ。どう考えても、可能性なんかないのはわかってるけど…」
「0じゃないだろ」
「山梨優しい…泣いていい?」
「外にでも行って一人で泣け」
「優しくない…秋月に会いたい…秋月不足で枯れる…あーっ!もうダメだ!ホントこれ秋月に言うなよ?!秋月の前ではいつもの俺でいるんだからな!」
「言えるかアホ」
「もう秋月に言えばいいんじゃないか?返事くれって。どっちにせよすっきりするだろ」
「え、渡辺今の話聞いてたの?鈍いの?ピュアなの?実は馬鹿なの?どれ?」
「え、俺おかしな事言ったか?」
「おい、井上寝てるぞ」
「マジかよ?!ペン!誰かペン持ってないか?!」
「油性はないなぁ。シャーペンでえぐる?」
「やりすぎ!やりすぎですよ瀬川さん!」
再び断線し始めた。
手にしたペットボトルについた水滴が軽い音を立てて廊下に落ちた。
長い事立ち聞きしてしまっていたことに気づく。
三年生はまだ話しを続けているようだったが、なんとなくこれ以上聞くのは気が乗らなかった。
誰もここを通らないことを祈りながら、足音を立てないよう静かにその場を後にした。
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