アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
54
-
ゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
空を見上げる。
キラキラと瞬く星。
満月に近い月。
こんな時間に跳ぶのもいいかもしれない、なんて思う。
肌寒いほどに強くなった風が、仄かに潮の匂いを運んでくる。
(どうしようか…)
とりあえず順序立てて、頭の中を整理する他ない。
好きだから付き合ってほしい。
本気だから考えてほしい。
緒方さんはそう言った。
それから縋るような目で、駄目かと聞いてきた。
(何が駄目なんだっけ)
まず男女交際という言葉があるように、本来男性と女性がそうなるべきなのであろう。
ただ自分は相手が女性であっても、交際というものをする気にはならなかった。
性別は問題ではなく、それ以前の問題。
何度か告白というものをされた事はあった。
しかし興味がない。
部活以外の事に割く時間もなければ、割く気もない。
どうしょうもない事だと思う。
あの日緒方さんに告白をされてから、季節が変わるほどに時間は経った。
なんて言って断ったらいいのか分からなかったけど、ここはもう、なんとかしてちゃんと断るべきだろう。
恋愛自体がよく分からないという事。
緒方さんが嫌いだとか、そういう事ではないという事。
女子に断るのとは違って、せめてそういった事は全部伝えて、そうすれば納得してもらえるだろう。
(だからちゃんと断って、緒方さんならきっと笑ってわかったって言って、それで)
それで、緒方さんは泣くのだろうか…
「秋月の前ではいつもの俺でいるんだからな!」
あの言葉の通り、きっとあの人は自分にそんな姿は見せないのだろう。
聞いたこともない声で紡いだ思いを押し殺して、変わらず笑い掛けてくるのだろう。
(いや、落ち着け)
緒方さんの感情に流されてはいけない。
三年生の話しを自分が聞いていた事は、緒方さんは知らないのだ。
緒方さんの話しに、感情に、巻き込まれてはいけない。
(よし、次に二人きりになる機会があったら、その時にちゃんと順序立てて)
キィ…と背後で扉の開く音がした。
見回りに来た監督に見つかったと思い、振り向きざまに謝る。
「すみません寝付けなくて」
「あれ?秋月?」
ざっと音を立てて一際強く吹いた風に漆黒の髪が揺れ、月明かりに映える。
(……そうだ)
知っている。
この人のタイミングの悪さは天下一品だ。
そこに立っていたのは、まごうこと無く、緒方さんだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
55 / 1191