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「よし、移動するぞ!」
朝食を終えた八時半、渡辺さんの掛け声と共に、三年生を先頭にして全陸上部員がランニングで校門を出る。
この頃にはだいぶ気温も上がり始め、アブラゼミの鳴き声がやたらと耳についた。
容赦なく日光を浴び続けるコンクリートは逃げ水で覆われ、一歩踏み込めば迷い込んでしまいそうだ。
上からは直射日光、下からはコンクリートの温められた熱によって、全身が焼かれるように暑い。
「肉…井上さんの額にうっすら肉って書いてないか?」
「俺も気づいたけど…あれ言っていいの?」
三年生のすぐ後ろを走る自分の後ろで一、二年生が密やかにざわついている。
「え、井上さん気づいてないんですか?」
「だって井上さんだぞ」
「リアル焼き肉…」
「やめろ笑う!」
そのやり取りが聞こえているのだろう。
少し先を走る田沼さんの横顔は、明らかに笑いを堪えている。
が、
「分け目がっ!分け目が焼けるっ!」
当の本人は全く別の事に嘆く。
「気にするとこ、もっと別だけどなー」
前を向いたままニヤニヤと笑う山梨さん。
「だいぶ消えてきちゃったね。でも毎晩書き直せばそのうち、日に焼けて跡になって消えなくなるよ」
瀬川さんの笑顔はいつにも増してにこやかだ。
「そしたら井上のおでこに入れ墨みたくなるってこと?」
緒方さんが食いついた。
「ん?俺のおでこがなに?」
井上さんも食いついた。
「かっこよくね?」
「えっ!そう?!ありがとなっ!緒方っ!」
後ろで誰かが、ぶはっと吹き出し、咳払いで誤魔化した。
「緒方」
「ん?なに山梨」
「お前も書くか、肉」
「え?絶対やだ」
「かっこいいのにか」
「かっこよくても俺はやだ」
「…脳内のシナプスはやっぱり繋がってないんだな」
「だからシナプスってなんだよ!」
「シナプスとは筋繊維や神経細胞間にあるシグナルを」
「秋月たんまっ!柴田ぁっ!」
「無理ですっ!何度っ!聞かれてもっ!」
「お前ら黙って走れ!!」
そう檄を飛ばした渡辺さんが、後ろを走る誰かと同じように咳払いをするふりをしてニヤけた口元を隠したのを、自分は見逃さなかった。
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