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カシャリと乾いた音が薄暗い倉庫に響く。
なんとか足を踏み出し、転倒を回避しようとしたところでその手を更に引かれ、緒方さんの肩に額をぶつけた。
「痛っ!いきなりなに」
「先輩には持たせられなくても、彼氏になら持たせられるだろ…?」
ぼそりと耳元で囁かれ、ばっと顔を上げる。
数十cmと離れない距離で向けられた瞳には、驚いた顔をした自分が映っていた。
慌てて一歩後ずさる。
「ほら行くぞ!」
掴んだ手をぱっと離し、緒方さんはポールを抱えて歩き出した。
心臓の音が騒がしく、掴まれた手と吐息のかかった耳は熱を持ったように熱い。
どうしてこの人はこうやって人を驚かせては、また何事もなかったように振る舞うのだろうか。
いちいち振り回される自分にため息が漏れる。
「バトンーバトンーライン引きーハイッ!」
軽快な歌声に振り向く。
「おわっ秋月?!」
「田沼さん…」
倉庫の入り口に立っていたのは田沼さんだった。
「今の聞いてた?!ちょっ、内緒な!!」
呆然と立ち尽くす自分を見て、歌に呆気を取られていると思ったのだろうか。
よほど恥ずかしかったのか、田沼さんは早口でドカドカと倉庫内に入ってくる。
「大丈夫!大丈夫だぞ!音楽の先生にな、田沼くんの歌声は独特ねー、って褒められたから!くそー…緒方が出てったから誰もいないと思ったのに…いやこれからリレーでさ、4継やるからっつって……秋月どうした?」
「なにがですか」
「暑いのか?顔真っ赤だぞ」
はっとして首を振る。
「あ、はい、ちょっと暑くて」
ふーん、と田沼さんは応えたが、どこか納得していないような声色だった。
メジャーを拾おうと伸ばした自分の手は、また微かに震えていた。
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