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襷を掛けた六人が出揃った。
「やっぱりお前かよ…」
嫌そうに声を掛けてきた田沼さんも襷をしている。
短距離Aチームのアンカーだ。
田沼さんも100mの選手だが、200mはどうだったか…
記憶を巡らすも去年は周りを見る余裕なんてなかったし、大会の記憶も100mのものばかり。
「俺も200は並だからな。てか秋月相手じゃ100でも勝てる気しないけど、先輩の顔を立てろ!俺を抜くな!プライドをへし折るな!」
随分と弱気な発言に驚く。
が、
「なに言ってるんですか。嫌ですよ」
「バトンの歌の事みんなに言ってもいいから!」
「バカなこと言ってるなよ田沼」
”バカな事”が、バトンの歌についてなのか、抜くな!という発言に対してなのかは分からないが、そう言って渡辺さんが割って入る。
「秋月、力抜かなくていいぞ」
「もちろんです」
「お、緒方が抜くぞ」
渡辺さんの声に視線を動かすと、コーナーの中腹、緒方さんが長距離チームを抜き去るところが見えた。
「渡辺はビリでもらうのになんでそんな余裕な訳?くそー…」
田沼さんは苦笑いをする。
「渡辺っ!マジでヤメテ!枚方抜かないで!」
フィールドから山梨さんが叫んだ。
渡辺さんは幅跳びの選手。
もう一度記憶を巡らすも、やはり200mを走ってる姿は思い浮かばない。
「枚方抜けなきゃうちがペナルティーだからな」
そう言って渡辺さんは黒い笑顔を浮かべた。
「来るぞ」
グラウンドは完全にヒートアップしていた。
悲鳴やら応援、怒号まで飛んでいる。
第九走者が近づいてくる。
再びの心地の良い緊張感。
短距離Bのアンカーが走り出す。
抜けない距離ではない、が相手が相手だ。
200mを専攻しているものに、どこまで追いつけるか。
田沼さんが助走を開始。
続いて自分も助走に入る。
緒方さんが更にだいぶ距離を詰めたようだった。
バトンを受け取る直前、緒方さんと目が合った。
三日月を描いた口元につられ、思わずニヤリと笑い返した。
前を向き走り出す。
目の前にある田沼さんの背中が徐々に近くなる。
コーナーに差し掛かった所で並び、一気に追い抜く。
田沼さんが何か小さく呟いた気がした。
少し先を行くBチームを追う。
ラストのストレート。
手足がぐっと重くなる。
確実に距離は縮まって行くものの、その背中に届く前に雷管の音が響いた。
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